基源:キク科 (Asteraceae / Compositae) のヒマワリ Helianthus annuus L. の果実又は種子。
ヒマワリの花について「花は太陽に合わせて向きを変える」,「太陽に合わせて向きを変えることはない」という言われ方があります。結論をいいますと,これらは成長の段階の現象であり,両説とも正しいのです。まだ頭花がそれほど大きくない生育段階では,より太陽の光を受けるために太陽に合わせて頭花が東から真上,そして西を向きます。この頭花は朝になるまでに元の位置に戻ります。頭花が向きを変えるとは,光を受ける方向と反対の茎が成長するためです。これはヒマワリの向日性(植物が太陽光の方向に曲がること)と概日リズム(1日周期で変動する生理現象,体内時計)によるものです。この現象は成長ホルモンであるジベレリンによるものであり,成長が止まるとジベレリンがなくなり頭花も動かなくなります。この頃には頭花は大きく成長し,頭花の重さで横を向きます。多くは東側を向きますが,別の方向を向く場合もあります。
牧野富太郎先生は「世人は一般に,ヒマワリの花が日に向こうて回るということを信じているが,それはまったく誤りであった。先年私が初めてこれを見破り“ヒマワリ日に回らず”と題して当時の新聞や雑誌などに書いたことがあった」と記載されていいます(この文章は講談社学術文庫の『植物知識(1981年)』で確認することができます)。おそらく牧野先生は成長を終えたヒマワリをご覧になられたものと思います。ヒマワリは高さの成長を終えてから開花に至る場合が多いので,この意味では牧野先生の観察は正しいのです。
ヒマワリは北米原産と言われており,16世紀にヨーローッパに,17世紀に中国に渡り,17世紀中頃に日本に導入されたようです。貝原益軒先生の『大和本草(1709年)』には「向日葵:和名ヒマワリ」とありますが用途の記載はなく,単に鑑賞目的だったことが推察されます。ヒマワリは1年草で,茎頂に30センチにも及ぶ頭花を付けます。頭花とは小さな花の集合体でありキク科植物の特徴です。ヒマワリの場合は円盤状の花床の上に1,000以上の小花が配置され,小花は中心花(筒状花)と周辺花(舌状花)に分類されます。中心花は受粉後に果実になります。周辺花は鮮やかな黄色の花弁を広げ,昆虫に花の存在を知らせるという役割をもっていますが,中性花(雄しべ,雌しべがない花)ですから結実はしません。
ヒマワリの果実の中には種子が1個あり,30〜50%の脂肪油を含んでいます。東ヨーロッパ,米国やアルゼンチンでは油採取用に改良された品種が栽培されています。採取された油はサラダ油や工業用に使用されています。ヒマワリの系統のうち,種子が大型で縞模様があるものは,中国で食用にされています。中国を訪問したことがある方は,ヒマワリのタネを食べた経験があるかもしれません。日本ではこの習慣がありませんから,私は最初は驚きましたが,食べてみると以外に美味しく,止められなくなった経験があります。食べ方が上手な人は歯で果実の殻を割って潰して,割れた殻の間に飛び出る種子を舌でくっつけて,1個のタネを1秒もかからず食べます。以前はレストランや嗜好品としてよく見かけたのですが,最近はこの習慣が減っているように感じます。食べた後の殻の片付けが大変ということも理由のひとつだと想像しています。
ヒマワリの種子の油は,70%ほどがリノール酸,次いでオレイン酸などの,いわゆる健康に良いとされる不飽和脂肪酸が主です。中国の本草書には民間薬として「血痢(便に血がまじる病気)」の治療とありますが,現在は食用としてのみ利用されているようですから,薬効はあまり期待できないのかもしれません。
日本ではこれから各地でヒマワリを見る機会があると思います。主に鑑賞目的ですが,同時に成長が早いもの(早生),草丈が低いもの(矮性)など,畑の緑肥目的で使用されることもあります。ヒマワリは様々な用途に改良されている大事な資源植物なのです。