基源:アブラナ科 (Brassicaceae) のセイヨウアブラナBrassica napus Linne又はアブラナBrassica rapa Linne var. oleifera De Candolleの種子から採取した油脂(脂肪油)。

 黄色い花が一面に広がる菜の花(ナノハナ)の季節になりました。観光地や菜の花畑に限らず,河辺の土手や河川敷などにも野生化したものが普通に見られます。一般に,2月〜5月に開花期を迎えますが,栽培の場合は播種時期などで開花期を調節することができます。

 「ナノハナ」という名称は特定の植物名でなく,アブラナ科の黄色い花を咲かせる植物の総称です。代表的な植物にセイヨウアブラナBrassica napus,カラシナ(セイヨウカラシナ)B. juncea,アブラナB. napus var. oleifera,ハナナB. napus var. amplexicaulisなどがあります。いずれの花もよく似ていて,4枚の黄色い花びらとガク,6本の雄しべ,中央の1本の雌しべが共通する特徴ですが,個々には葉の付け根が茎を抱く(セイヨウアブラナ),葉が縮れる(ハンナ)などの違いがあります。開花時にはいずれも春らしい良い香りがします。花後は雌しべの子房部分が発達して,細長いさや状の果実(長角果)ができます。この中に球形のたくさんの種子が入っています。

 アブラナの仲間の原種は,ヨーロッパ北東部,黒海沿岸地域の雑草に由来すると考えられています。この地域で当初は根が太るカブとして栽培され,次第に種子から油を採る作物として利用されるようになりました。日本にも縄文時代の遺跡から見つかるなど,古くから伝わっていたようです。江戸時代にかけてアブラナは灯明用の油を採集する目的で広く栽培されるようになり,この植物を「菜種(ナタネ)」,油のことを「菜種油」と称するようになった由縁です。明治以降,より油の含有率が高いセイヨウアブラナが「西洋菜種」として導入され,日本でさらに多収量に改良され,アブラナにとって代わりました(日局18ではアブラナも収載されています)。このような品種はアブラナとキャベツの仲間が交配してできたようです。現在の「菜種(なたね:正式な作物名)」はこの植物を指します。一方,植物体がややすんなりしたカラシナは種子が「芥子(マスタード)」であり,世界中で広く利用されている植物です。環境適応力が強く生育が旺盛で,日本の河川敷で見かけるナノハナはこの種類であることが多いようです。その他,野菜として利用されているアブラナ科植物も「ナノハナ」と言えます。畑に残ったノザワナB. rapa var. hakabura,コマツナB. rapa var. perviridis,チンゲンサイB. rapa var. chinensisに加え,ハクサイB. rapa var. glabraなども同じ仲間でよく似た花を咲かせます。

 菜種油は,当初は灯明用でしたが,江戸時代に次第に食用油として使用されるようになり,天ぷらや揚げ物といった料理の普及に寄与しました。一方,欧米では菜種中のエルカ酸およびグルコシノレートという2種類の含有成分のために食用での使用が制限/禁止されていました。しかし1970年代,カナダでこれら2成分をほとんど含まない品種,キャノーラ種が開発され,食用油として飛躍的に普及することになります。今や全世界において食用の植物油の中ではパーム油,大豆油に次いで3番目の生産量,日本では食用油の6割を占めているそうです。いわゆるサラダ油とは菜種油(=キャノーラ油)を指していることが多いようです。

 ここで「油」とは,脂肪酸と総称される化合物群から構成されている物質です。脂肪酸は化学構造の違いから飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類されますが,不飽和脂肪酸はコレステロール値を低下させるなど私達の体に有益な場合が多いとされています。不飽和脂肪酸はさらに構造式中の炭素と炭素の二重結合の位置によりさらにオメガ9脂肪酸(オレイン酸など),オメガ6脂肪酸(リノール酸),オメガ3脂肪酸(アルファーリノレン酸など)に分類されます。菜種油にはこのような不飽和脂肪酸が多く含まれています。

 昨今のスーパーマーケットでは様々な価格帯の菜種油が販売されています。価格差は由来(国産,輸入品)や抽出法(圧搾,溶剤抽出)など違いによるものです。今や菜種油は私達の食生活に不可欠になっています。野菜としての菜花も豊富です。この春,ご近所の菜の花畑を見に行かれて,目の前の菜の花がどの種類なのか,少し詳しい野菜図鑑を参考にじっくりと観察してみては如何でしょうか。

(神農子 記)