基源:キンポウゲ科(Ranunculaceae)のフクジュソウAdonis ramosa Franch.の全草または地下部。
あけましておめでとうございます。昨年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の位置づけが5類感染症となり、各地で自粛していたイベントが開催されるようになり、ようやくこれまでの生活が戻り、皆様には新年を賑やかに過ごされているのではないでしょうか。園芸店やスーパーなどにも正月飾りが例年よりも数多く並べられていたように感じました。
屋外の売り場で目立ったのは松竹梅の寄せ植えです。松竹梅は「清廉・潔白・節操」を表すおめでたい物として慶事に飾られますが、鉢物としてはそれだけではモノ足らないのでしょうか、フクジュソウやナンテンが一緒に植えられていることも多いようです。
フクジュソウは旧暦の正月頃に黄色の明るい花を咲かせることから元日草や朔日草などと呼ばれています。スプリング・エフェメラルと呼ばれる植物の一つで、早春に花を咲かせ、夏には地下部を残して地上部全てが枯れてしまいます。江戸時代には一番に春を告げることから「福告ぐ草」と名付けられ、更に、長寿の「寿」が充てられ現在の「福寿草」となりました。黄金色の美しい花も縁起が良く、正月の鉢植えに添えられる所以です。
薬用としては全草や地下部を古くは「福寿草」「福寿草根」などと呼んで、強心、利尿薬として利用された時期もあったようですが、全草に強心配糖体のシマリン、シマロール、ソマリン、アドニトキシン、K-ストロファンチンなどが含まれ、毒性が非常に強く、嘔吐、呼吸困難、心臓麻痺など引き起こすこともあり、たいへん危険な療法です。薬用利用でなくとも、フクジュソウの花蕾や開いた葉をフキノトウやヨモギ、シャクなどと間違っての山菜事故が報告されています。
フクジュソウ属植物は広く北半球に分布し、ロシアやヨーロッパなどでも浮腫の治療薬として使用していました。その後、強心作用が見いだされ、臭化ナトリウムやコデインなどとの配合剤が軽度のてんかんや心臓病の治療薬として使用されはじめたようです。中国においても全草が「冰凉花」の名称で1970年代の中華人民共和国葯典に収載され、強心、利尿、鎮静剤として、急性、慢性心不全への適応が記載されています。このように、強心薬が不足していた当時は貴重な薬物であったと考えられます。しかし、現在では優れた化学薬品が開発され、フクジュソウはその役目を終えたようです。
フクジュソウの仲間は日本全国に分布しますが、園芸用に乱獲された結果、今では各地で絶滅危惧種としてレッドデータブックに掲載されています。互いによく似ていますが、日本にはキタミフクジュソウAdonis amurensis、ミチノクフクジュソウA. multiflora、シコクフクジュソウA.shikokuensisなど、各地方で分化した種が生育しています。正月飾りの役目が終わった後のフクジュソウを、近くの山などに戻して植えると却って自然植生を乱すことになりかねません。鉢植えや自宅の庭に植えて楽しむのが適切でしょう。日当たりの良い場所に植え付ければ翌年も楽しむことができますので、大切に育ててください。
フクジュソウ以外に新年を祝う縁起の良い植物として、ナンテンやスイセンがあります。ナンテンは『和漢三才図会』に「これを庭に植えて火災を防ぐ」との記述があり、「難を転じる」の意味から庭木としてだけでなく門松の中に飾られたり、また葉には防腐作用があり折り詰めの赤飯に添えられたりして利用されてきました。しかし、全草にはドメスチンやヒゲナミン、葉にはナンジニンを含有しており、大量摂取すると痙攣や呼吸麻痺などを起こす可能性がありますので要注意です。また、スイセンは厳しい冬の寒さに負けず花を付けることから、強くたくましく成長するようにと飾られますが、リコリンやガランタミンなどのアルカロイドを含有し、中毒症状として悪心、嘔吐、下痢などが報告されています。縁起の良い美しい植物には有毒植物が多いようで、あるいは魔除け的な意味合いもあったのでしょうか。いずれにせよ、これらは決して口にすることがないよう注意が必要です。