晩秋から冬にかけてサザンカ,続いて春までツバキの花が咲きます。いずれもツバキ科(Theaceae)ツバキ属(Camellia)の近縁種です。花が少ない季節に咲くこれらの常緑植物は古くから鑑賞目的で品種改良されてきました。庭木として各地で植栽されていますので,私達の身近で両種を見る機会があります。両者は一見類似していますが,明確な違いがあります。これからの季節,見かけることが多い花ですので注意して観察してみては如何でしょうか。
一般にツバキと称しているものは,主にヤブツバキ Camellia japonica L. であり,本州以南に広く分布しています。学名に「japonica(日本の)」が付けられていますが台湾や中国大陸にも分布しています。花は九州では12月頃から咲きはじめ,北に向かうに連れて遅くなり,青森県では4月中旬以降に開花します。日本海側の北陸地方から東北地方に分布しているツバキはユキツバキ Camellia rusticana Honda です。ヤブツバキが樹高15メートルにも達する高木であるのに対し,ユキツバキは積雪地に生育していることもあり3メートル程度の低木です。いずれも紅色の5弁花で,花弁は5から7センチで下半分が雄しべの花糸と合着して筒状になっています。ユキツバキは花が平開することでヤブツバキと区別できます。いずれも花が散るときは、花弁と雄しべがセットで落花します。枝に残った雌しべが肥大して果実および種子になります。
一方,サザンカ Camellia sasanqua Thunb. は山口県,四国,九州以南の限られた地域に分布していますが,前述のとおり各地で植栽されたものを見ることができます。花は10月から12月に開花し,平開性の5-6枚の花弁を有しています。もともとの野生種の花は白色系ですが,植栽されるものは紅色系が多く,見た目はヤブツバキとそっくりです。しかしサザンカの花は離弁性なので,開花後は花弁と雄しべがバラバラに散ります。このように木を遠目にみても,株元に散った花や花弁の様子でツバキとサザンカは明確に区別できます。
ツバキとサザンカの種子には35〜45% の脂肪油が含まれています。サザンカの種子油は質が悪いとされたようですが,ツバキの種子油は「椿油」として様々な用途があります。例えば美容製品として毛髪油や肌の保湿やマッサージオイルとして,高級食用油として,健康食品やサプリメントとして,医療用の軟膏基剤,さらには工業用の潤滑油にも使用されています。
ヤブツバキの花は薬用として「山茶花(サンチャカ)」の名称で明代の本草書『本草綱目(1596)』に収載されています。「やけどに粉末にしたものを麻油(ゴマ油)で調えて塗布すると良い」と記載があります。総じて,血を涼める,止血する,瘀を散らす,腫れを消す効果のほか,吐血,鼻血出,血崩,腸風,血痢,血淋,打撲傷,やけどを治す,などという効果もあるようです。収穫は蕾がふくらんで花が開こうとする時期に実施し,乾燥したものが使用されます。
サザンカの漢字表記に「山茶花」を充てる場合がありますが,「山茶」はヤブツバキのことですから,これは誤りだと考えられます。サザンカは漢字では「茶梅」が正しく,中国では葉や新芽を摘んで茶にするものを「茶」,種子から油を採るものを「油茶」,花を観賞するものを「茶花」,全体を総合したものに対しても「山茶」と称するようです。一方,日本でツバキの漢字表記とされている「椿」は実は国字で,中国では椿はセンダン科チャンチンToona sinensisを指しますので注意する必要があります。
最近の植物分類は,DNA配列に基づくAPG分類体系が主流になりつつあります。従来の新エングラー体系ではツバキ科は離弁花に分類されますが,そうするとヤブツバキの合弁性は合致しません。一方,APG分類体系では合弁花か離弁花に関係なく,ヤブツバキとサザンカが近縁種であることが示されます。APG分類体系には時として戸惑いを感じますが,ツバキとサザンカの花の散り方をみて,改めて分類学そのものについて考えてみてはいかがでしょうか。