基源:タデ科(Polygonaceae)のイタドリFallopia japonica (Houtt.) Ronse Decr. var. japonicaの地下部を乾燥したもの。
特定外来生物であるウシガエルやアメリカザリガニなど海外から来た生物が日本の生態系を乱し,在来種が減少していることは皆さんよくご存知のことと思います。植物の世界においても同様で,セイタカアワダチソウや最近ではオオキンケイギクなどの外来種が一面に広がっている光景をよく目にします。一方,日本の在来種が海外で広がったケースもあり,中でもクズは世界の侵略的外来種ワースト100の選定種で,北アメリカを中心に広がっています。また,イギリスでは日本から来たイタドリがJapanese knotweedと呼ばれ,種子で分布を広げ,根茎を延ばして繁殖して人々を困らせています。
イタドリは日本各地,韓国の済州島,中国大陸,台湾などに分布する雌雄異株の多年生草本で,春の新芽の頃に折り取ると中空の茎から「ポン」と心地よい音が響くことから,「スカンポ」「スッポン」などと親しげに呼ばれてきました。新芽には程よい酸味があり,山菜として和え物,佃煮,煮付け,塩漬けなどにして食されますが,シュウ酸を多く含むことから食べ過ぎには注意が必要です。和名のイタドリは,もんだ若葉で切り傷の痛みをとる「痛み取り」に由来するというのが定説になっています。
虎杖根は『名医別録』の中品に収載されており,李時珍はその名称について「杖とはその茎を形容したもの,虎とはその斑を形容したものだ」と述べ,虎斑の入った杖が語源であるとしています。やはり,春の芽生え時期の姿が印象的なのでしょう。薬効については『名医別録』に「月水を通利し,留血,癥結を破る」とあることから,駆瘀血薬であったことが明白で,蘇頌も「灰に焼いて諸悪瘡に貼る。焙じ研り,錬蜜で丸にして陳米飲で服すれば,腸痔下血を治す」,さらに李時珍も「研末して酒で服すれば,産後の瘀血,血痛及び堕落撲損の昏悶を治するに有効である」と,古来一貫して駆瘀血薬としての効能が記され,月経閉止,痔瘻出血,悪瘡癬疾などに用いられてきました。
中国市場に出回る薬材は不定形で,根由来品の直径は0.6〜1.5cm程度です。外面は褐色で,はっきりした縦じわがあり,質は堅くて折れにくく,断面は赤褐色で繊維質です。根茎由来品は円柱形で,中央に空隙があります。においはかすかで味はやや苦いものです。
根茎には遊離アントラキノン体とアントラキノン配糖体を含み,主なものはエモジン,フィスシオン,クリソファールなどで,加水分解によってエモジンを生じるポリゴニンなどを含有しています。また,スチルベノイドのレスベラトロールやその配糖体のポリダチンなどを含みます。レスベラトロールはブドウやブルーベリーなどにも含まれており,健康食品等で注目されている成分です。我が国では虎杖根は専ら医薬品に指定されていますが,海外ではレスベラトロールの抽出原料に使用される場合やその抽出エキスが利用される場合もあります。前述したようにアントラキノンを含有しますので弱いながらも瀉下作用があり,服用量には注意が必要でしょう。中国医学における代表的な処方としてリウマチなどによる関節の痛みや手足のしびれに桑枝,羌活,当帰,臭梧桐などと配合した桑枝虎杖湯があります。また,中国でCOVID-19に対して使用された宣肺敗毒湯にも虎杖が配合されています。
WMO(世界気象機関)は2023年7月を観測史上最も暑い月としており,我が国においても東京都心の猛暑日が最多記録を更新するなど全国的に前例のない暑さを実感しました。『薬性論』によると虎杖根には駆瘀血作用の他にも清熱解毒作用もあるとされ,「暑季に根と甘草とを共に煎じて飲料にすれば琥珀のような愛すべき色になり,味も甚だ甘美である。瓶に入れて井戸に入れてしっかりと冷やしたものを当世一般に冷飲子と呼び,茗(茶)よりも貴重な飲料として用いている。極めて暑毒を解すものだ」と記載されています。今年の猛暑期は過ぎましたが,残暑対策にはまだ間に合いそうです。