基源:ミカン科 (Rutaceae) のヘンルーダ Ruta graveolens L. の全草を乾燥したもの。

 春が終わり、夏が近づくにつれて植物園や花壇では花の種類が次第に減っていきます。そんな時期でも薬用植物園やハーブ園では、セイヨウオトギリソウHypericum perforatum L. に代表されるヨーロッパ原産の花を見ることができます。その中にミカン科のヘンルーダRuta graveolens L. が見つかるかもしれません。日本ではミカン科はほとんどが木本植物で、草本はマツカゼソウだけです。そのマツカゼソウによく似たヨーロッパ南部原産の植物がヘンルーダです。

 ヘンルーダは草本性の多年草で、大きくなると高さ1メートルに達します。温かい地域では地面に近い茎は木質状になるため、亜低木とされる場合もあります。葉は二〜三回羽状複葉で、どこかサンショウに似たやや柑橘系の香りがあります。初夏に集散花序をつくり、直径2センチほどの多数の黄色の花をつけます。中央の花は花弁が5枚、周囲の花は花弁が4枚と、不思議な規則性があります。

 オランダ語でヘンルーダと呼ばれ、ヨーロッパでは広く「ルー(Rue)」、「コモンルー(Common Rue)」などと呼ばれてきました。日本には江戸時代後期から明治初期にかけて渡来したとされ、当初は中国名に由来する芸香(うんこう)と称されていました。よって、この植物が属する科(Rutaceae)は、芸香科、へんるうだ科などと称されていましたが、1960年代から現在のようにミカン科と称されるようになりました。ヘンルーダの学名から、ミカン科を代表する植物であることが容易に想像されます。なお、英語名はRue のほかHerb of graceがあり、優美(優雅)なハーブという意味です。葉や花はそれほど鑑賞価値があるとは思えませんので、古来その香りが愛されてきたのでしょう。

 ハーブとして利用するには、全草を開花直前あるいは開花期にかけて採集し、日干しで乾燥させます。内服薬としては、主に駆風、通経、鎮静、鎮痙、消炎、抗ヒステリー、駆虫薬などとして使用されますが、通経作用があるので妊婦には禁忌です。作用は非常に激しく、大量に服用すると中毒するので、ごく少量を使用することがいずれに書物にも記載されています。外用薬としては、軟膏あるいはガーゼや布に冷ました煎じ液を含ませて、痛風やリウマチの痛み、打ち身や捻挫などに使用され、虫刺されやしもやけにも応用されます。また葉には防虫効果があり、以前は書籍等に挟んだそうです。作用が激しいため、最近では使用される機会は減っているようですが、イタリアの蒸留酒グラッパの香り付けに利用されることがあります。

 特有の強い香りは、全草に含まれる精油のメチルノニルケトン、ヘプチルメチルケトンなどにより、抗菌作用や芳香性健胃作用が認められています。フラボノイド配糖体で有名なルチン(Rutin)もヘンルーダから最初に発見されましたが、含量は少ないようです。

 中国では清代の『本草綱目拾遺』(1765)に「芸香草」として収載されています。薬効も「新鮮な葉、または煮たものを食べると下痢及び小便不通の治療、葉を油で煎じ潰してヘソに塗布すると回虫の治療、葉を鼻孔に詰めると鼻出血の治療、ヘビ、サソリ、ムカデなどに噛まれたり刺されたりしたときにすぐに生の葉を食べると解毒薬として有効」など多用途に用いられていたことがうかがい知れます。現在でも雲南省や広西壮族自治区など南部の地域で栽培され、熱帯性マラリア、熱毒瘡瘍、打撲傷などの治療に利用されているようです。

 栽培方法は、種子を入手して4月頃に直播きあるいは箱蒔きにします。挿し木も可能ですので、初夏に茎をいただいてきて鹿沼土やバーミキュライトに挿すと良いでしょう。日当たりのよい乾燥した土地を選び、またアルカリ土壌を好みますので、植える前に苦土石灰などを鋤き込んでおくと健全に育ちます。狭い庭なら水や肥料を少なめにすると枝葉が広がり過ぎるのを防ぎます。注意する点は、葉や茎の汁が皮膚につくとかぶれて皮膚炎を起こす恐れがあることです。収穫するときには手袋をすることをお勧めします。

(神農子 記)