ボタンとシャクヤクは同じボタン科のPaeonia属植物に分類され、常に並び称されてきた植物です。漢方生薬としても牡丹皮と芍薬の共通点や相違点がよく話題に上ります。同属植物で共に根を利用することも同じですが、牡丹皮は根皮であり芍薬は根をそのまま利用することから、生薬ラテン名はMoutan CortexとPaeoniae Radixで、まったく異なります。薬効的には牡丹皮は代表的な駆瘀血薬(清熱涼血薬)であり、一方の芍薬は、野生品や栽培品の根をそのまま乾燥した赤芍は牡丹皮に類した薬効を有し、栽培品の根のコルク皮を去り湯通しするかそのまま乾燥した白芍は養血薬(補益薬)とされ、日本では一般に白芍が使用されています。
花の大きさや美しさなどから共に観賞用植物としても愛でられ、園芸植物として数多い品種がありますが、育てやすさには難易があります。経験的に、ボタンなら花が赤紫色のオーソドックスなものが育てやすいように思います。ただ、一般家庭ではボタンよりもシャクヤクを植えておられる方が多いようで、自宅のシャクヤクに花がつかないという園芸相談をよく耳にします。シャクヤクの花が咲かない理由はいくつか考えられますが、事情をお聞きすると多くは日当たりに問題があるようです。日当たりが悪いと花がつきません。ただ、野生では草原や疎林の木陰に生えていることが多く、前者は日当たりが良いですが、後者は木漏れ日程度です。相対的な日照量が関係していると思われますが、兎に角家庭園芸では日当たりを良くすることが大切です。ただし、他の多くの園芸植物と同様、西日は良くありません。鉢植えであれば置き場所を変えることで日照の調節ができて良さそうですが、肥料管理が難しいためか花を咲かせることは難しいようです。よって地植えが良いのですが、毎年立派に花を咲かせ続けるには3年程度で植え替える必要があります。それ以上放置すると花つきが悪くなります。9月末から10月初めの植え替え時には掘り上げた後にまず根を切り落とし、3〜5芽が残るように根茎を切り分けます。この時に切った根が薬用に利用されます。植え付けた根茎は翌春にかけて細い根を伸ばしていきますので、しっかりと元肥を施すことも重要です。花後のお礼肥と共に秋は翌年に花を咲かせるための重要な施肥時期です。肥料が不足気味の場合、蕾が立ち上がっても咲かずに枯れてしまうこともあります。植え替えた翌年の株には花を咲かせない方が良いとされます。様子を見て早めに切って生花にすると良いでしょう。
ボタンについては木ですから、剪定が必要です。葉が落ちた後の整枝とともに芽欠きも大切です。株の内側に向かって伸びそうな芽は欠いておきます。また、市販の苗はシャクヤクの根に接木されていますので、しばしは根元からシャクヤクの茎が伸びてくることがあります。放置するとシャクヤクに入れ替わってしまいますので根本から切り取ってしまう必要があります。なお、ボタンを薬用利用するには掘り上げた根の芯(木部)を抜く作業が必要です。掘り取った生の根を適当な長さに切り、一端を木槌でたたいて芯を出し、それを口にくわえて根皮(二次皮層。形成層の外側)を引き裂きながら芯抜きします。歯が丈夫でないとできない作業です。シャクヤクにはそのような芯がありません。
ボタンとシャクヤク、いずれも薬用植物として重要ですが、花の香りにも心を癒してくれる確かな効果があります。ボタンの花を切花として飾ると、部屋中に高貴な香りが漂います。大型の花の立派さと云い香りと云い、流石に「花王」と褒め称えられる花だと感じます。2〜3週間遅れて咲き始めるシャクヤクにも良い香りがあります。切花としては花持ちが良いシャクヤクの方が優れていますが、花蕾が出す蜜にアリが集まりやすいので、早朝、アリが働き出す前に採集すると良いかもしれません。原植物の素性を知ることは生薬の理解に繋がります。自宅でなくても各地に有名なお寺や植物園がありますので、是非花の時期に訪れて香りを楽しんでみてください。