あけましておめでとうございます。年賀状に載せる今年の干支に因む植物を探す中、生薬関連では菟絲子しか思い当たりませんでした。菟絲子については以前この欄でご紹介したことがあるのですが、視点を変えてこの記事を認めてみました。

 原植物について、今年春からの朝ドラの主人公が予定される植物学者の牧野富太郎博士は、『国訳本草綱目』の注で「我が国の学者は従来菟絲子をネナシカズラCuscuta japonica Choisy(ヒルガオ科)に充てているが、その正品はマメダオシCuscuta chinensis Lam. としなければいけない。しかし、集解に引用された名医別録に記された菟蘽は蓋しネナシカズラならん。」とし、また「本草綱目啓蒙に、一種海辺に生ずるものは蔓が細くて実が小さく、今薬舗に売るものの多くはこれである、としているのはハマネナシカズラCuscuta maritima Makinoであってハマゴウに寄生するものである」とし、Cuscuta属の種々のものが使用されてきたことを述べています。いずれにせよ小さな種子であることに違いはなく、薬用に大量に集めることはたいへんな作業です。

 現代中医学では菟絲子は補益薬中の助陽薬とされ、陽虚を改善する薬物とされます。肝、腎、脾に入り、それらの陽虚を改善します。腎陽虚によるインポテンツ、遺精、頻尿など、また肝腎不足による視力低下や眩暈、また脾虚による泥状便や水様便などに他薬と配合して使用されます。5世紀末に陶弘景は「丸剤にするのが良く、煮てはならない」と書いていますが、明代の李時珍は「4〜5日酒に浸し、4〜5回蒸し晒して粉にして餅にして焙じて乾燥する」と熱する修治法を紹介し、現在でも煮熱した菟絲餅が利用されています。

 ネナシカズラで思い出されるのは、陝西省のハマボウフウの栽培畑で屈んで作業をしている若い女性がいて、近づいて尋ねてみると帰省中の大学生で、ハマボウフウの葉に寄生しているネナシカズラの仲間を葉と共に取り除いていました。放っておくと覆い尽くされてしまうようです。地についた根が無いにも関わらず他の植物を覆い隠すほどの生命力の強さに、古人は強壮薬としての薬効を予見したのでしょうか。それなら採集が容易な地上部そのものであっても良かったと思うのですが、治験を繰り返した結果種子に行き着いたのでしょう。もっとも、地上部の薬用については『神農本草経』に「汁を顔面に塗れば面䵟(シミ、ソバカスの類)を去る」とあり、陶弘景も「その茎でもって小児を沐浴させれば熱疿(あせも)を療する」と記していますから、古くからそれなりに使用されていたようです。

 なお、野生ウサギの糞を望月砂と称して薬用にされることはご存知でしょうか。李時珍は「明月砂」などの名称で紹介し、主治の項で「目中の浮瞖(白内障)、勞瘵(肺結核)、五疳、疳瘡、痔瘻に有効で、殺虫し解毒する」と紹介しています。一般には臘月(旧暦12月)に採取するそうですが、新鮮なものかある程度風雨に晒されたものかは定かでありません。また、中国を旅すればしばしば兎肉が調理されて出てきます。『名医別録』によれば補中益気の効能があるとされます。

 昨年は11月に皆既月食という珍しい天体ショーがあり、赤い月を楽しまれた方も多かったと思います。一説に、中国では月のウサギは臼に入れた不老長寿の薬物を搗いているのだそうです。菟絲子の利用法を調べてみますと、5世紀の『雷公炮炙論』には「採集後に脆くて薄い殻を去り、苦酒に二日間漬け、濾し出して黄精の自然汁に一晩浸したのちに弱い火で乾かし、臼に入れて熱く焼いた鉄の杵で搗く」とあります。また、李時珍も「温水に入れて揺り動かして砂泥を去り、酒に一夜浸して曝乾して搗く」と記しており、月のウサギが臼に入れた菟絲子を搗いていると想像すると楽しくなります。一方で、新型コロナ感染症をはじめとする先が見通せない不安や不穏を抱えたままの年越しになりました。猛獣の虎から優さと俊敏さがイメージされる兎へと干支が移り変わり、今年はどのような年になるのでしょうか。読者の皆様にとって良き年となりますようお祈りいたします。

(神農子 記)