基源:カキノキ科 (Ebenaceae) のカキノキ Diospyros kaki Thunb. の成熟した果実の宿存したがくを乾燥したもの。
カキ(柿)は日本の晩秋を代表する果物です。植物和名はカキノキで,東南アジア原産とされています。古くに日本に導入され,果樹として改良されたものが北海道を除く各地で栽培されています。全国の果実生産量の統計では,1905年の果樹総生産量38万トンのうち42%がカキだったようです(現在は数%)。カキには甘柿と渋柿がありますが,次の4種類に分類されています。①完全甘柿:甘柿の中で,種子の有無にかかわらず樹上で自然に渋みが抜けるもの。甘みが強いのが特徴。代表種である「富有(ふゆう)」は,収量が多く日持ちが良いため最も栽培面積が広い。②不完全甘柿:甘柿の中で,種子が形成されるとその周辺部の果肉に褐色斑点(タンニン細胞が凝固して褐変したもので「ごま」とも呼ぶ)を生じ甘柿となるもの。「西村早生」などがあり,中の種子が少ないと渋くなり,脱渋して出荷されます。③完全渋柿:渋柿の中で,種子の有無にかかわらず渋柿となり,果肉に褐色斑点がないもの。渋抜きすると程よい甘みになるもので「西条(さいじょう)」などが知られています。④不完全渋柿:種子が形成されるとその周辺のわずかな部分のみ渋みが抜け,渋抜きをすると甘くなるもの。代表的な「平核無(ひらたねなし)」は多汁で軟らかく,鮮やかな黄橙色の果皮も美しいものです。カキの渋みの原因は水溶性タンニンです。これが口の中で溶けると渋みを感じるためで,これが不溶性タンニンに変化すると渋みがなくなります。渋抜きの方法としては伝統的な「湯抜き」以外に「アルコール脱渋」と「炭酸ガス脱渋」があります。
日本のカキは幕末,ペリー艦隊に同行した植物学者 J. Morrow が持ち帰り,さらに地中海地域に広まりました。学名(種小名)に「kaki」が採用されています。カキノキは高さ10メートル以上になる落葉高木で,6月頃に両性花と単性花が混在する雌雄雑居性と呼ばれる形式で開花します。結実後,成熟した果実の宿存したがく,いわゆる「カキのヘタ」を柿蒂として利用します。
「カキのヘタ」は,果柄(カキの付け根,枝との接続部)・蒂座(がくの付け根)・がく片・子房壁(がくと果肉の接着部)から成り,柿蒂の現在市場流通品(中国産)の大半はがく片が割れ落ちて欠落しています。柿蒂は漢方生薬として柿蒂湯や丁香柿蒂湯に配合され,また日本の民間薬でも柿蒂単独で吃逆(しゃっくり)の治療に用いられてきました。この効果については経験的なものでしたが,最近,柿蒂湯の効果についての臨床調査が報告されました(日東医誌,69,161-167, 2018)。これによると吃逆を主訴とする患者に対して,第一選択薬として柿蒂湯が処方された症例について調査した結果,対象患者27名(年齢24〜89歳)の 66.7%に効果が認められ,88.9%が4日以内に効果が確認できたというものです。患者の証によらず病名処方的に投与された例があったにも関わらず有効率が高かったことが明らかにされた論文です。
柿蒂の含有成分として,ベツリン酸,ウルソール酸,オレアノール酸などのトリテルペノイドやステアリン酸,パルミチン酸などの飽和脂肪酸が知られています。最近,これらの成分を指標に実施された柿蒂の品質に関する研究が報告されました(生薬学雑誌,75,1-17,2021)。その結果,実験的に採集した完全甘柿と完全渋柿及び不完全渋柿のヘタの成分比較では,完全甘柿の方が,ベツリン酸含量が有意に高いことを明らかにしています。また,未熟果実のヘタと成熟果実のヘタでは,成熟果実のヘタの方にベツリン酸濃度が多く,ウルソール酸とオレアノール酸は有意差がなかったそうです。柿蒂の品質をベツリン酸だけで評価することはできませんが,現在の日本で使用される柿蒂が中国産の渋柿由来であること,および日本では甘柿を食する機会が多いことを総合すると,私達が甘柿を食べた時に残るヘタも重要な資源であることがわかります。その他,乾燥方法(天日と温風乾燥)や保存期間(10年間)で顕著な差が認められないなど,この報告では柿蒂の品質について多くの情報を提供してくれました。