基源:ヒユ科(Amaranthaceae)のケイトウCelosia cristata L.の花穂を乾燥したもの(鶏冠花)、ノゲイトウCelosia argentea L.の成熟種子(青葙子)。
ケイトウの花を知らない方はおられないと思います。今回のテーマは見た目も華やかで、屏風や絵画のモチーフとしても描かれることの多いケイトウに由来する生薬です。ケイトウはまさに雄鶏のトサカを連想するその華やかな姿から観賞用としても人気が高く現在では多くの園芸品種が作られています。有名なものとしてトサカ系や久留米系がよく知られています。ノゲイトウは野生種で、ケイトウのような華やかさはありませんが、清楚ですっきりとした美しさを持っており、花穂の姿からはロウソクが連想されます。両者とも真夏に咲く観賞用植物として注目されますが、古来薬用としても利用されてきました。なお、ケイトウをノゲイトウの1栽培品種として、ノゲイトウの変種あるいは品種に分類する意見もあります。
生薬として本草書に最初に記載されたのはノゲイトウで、『神農本草経』の下品に「青葙子」の名称で、「皮膚に入った邪気の熱により瘙痒するものを主る」とあります。一名「草決明」とあることから、ケツメイシに似た効能もあったと考えられます。一方のケイトウは宋代の『嘉祐本草』に「鶏冠子」の名で初めて収載され、陳蔵器の『本草拾遺』および大明の『日華子諸家本草』を引いて「腸風、瀉血、赤白痢を止め、婦人の崩中帯下の薬には炒って用いる」とその薬効を記しています。種子ではなく花そのものに由来する「鶏冠花」の名称は『聖濟総録』や『太平聖恵方』の処方中に見られますが、本草書に記載されたのは明代の『本草綱目』が最初で、「痔瘻、下血、赤白下痢、崩中を治し、赤白帯下には赤白の花の色で分けて用いる」と記されています。その植物形態に関して、著者の李時珍は「鶏冠は處々にある。三月苗が生え、夏に入って高いものでは五、六尺になるが、低いものではわずかに数寸に止まる。葉は青く柔らかで、頗る。白莧菜に似ているが、狭く尖って赤脈がある。茎は赤色で、或いは円く、或いは扁たく、筋が起っている。六、七月に梢の間に花を開き、紅、白、黄色の三色があって、その穂の円く長く尖ったものはさながら青葙の穂のようで、扁たく巻いて平らなものはさながら雄鶏の冠のようである。花の大なるものは周囲一、二尺ほどのものもあり、層層溢れるように巻きでて愛すべきものである。子は穂の中に在って黒く細かく、光って滑らかだ。莧実と一様である。その穂の形の秕麦のようなものは花にもっとも耐久性があって、霜が下りてから初めて焦げちぢれる」と記しており、明らかにケイトウを説明したものです。ただし、ケイトウとノゲイトウは元より近縁であり、細かな黒い種子も互いに区別し難く、実際の市場では両者が混用されてきたようです。
ともに一年生草本で、茎は直立し、高さは大型のものでは1m近くに達し、全体に無毛です。葉は単葉で互生し、ノゲイトウの方がやや小型で細長い感じがします。両者を区別する特徴的な部分は茎頂につける穂状花序(花穂)の形で、ノゲイトウでは長さ20cm程度の円柱状で、ケイトウでは通常ニワトリのトサカ状になります。ともに現在では園芸品種が開発され、形や色は様々です。
アフリカ、インドネシア、インド、その他アジアの国々では古来伝統薬としての他、野菜としても利用されてきました。薬用としては、花序に由来する鶏冠花と青葙花は収斂、止渋の薬物として、止血、止瀉作用を期待して痔、下血、吐血、血痰、血尿、血性帯下などさまざまな出血に対して用いられており、鶏冠子も同様に用いられます。一方、青葙子は厥陰の薬物とされ、降圧作用や瞳孔散大作用が知られ、高血圧、眼科疾患、鼻血、皮膚掻痒症などに用いられます。成分的にはケイトウからはポリフェノールやフラボノイド、サポニンなどが報告されています。薬効はそれぞれ異なりますが、鶏冠子と青葙子の外形は酷似しており、植物分類学的にも同種とする説があり、果たして薬剤として両者を区別する必要があるのかどうかなど、検討の余地があると思われます。いずれにせよ、花穂の収穫にはさほど労力を要しませんが、小さな種子を相当量集めるのは大変な作業です。