基源:アカネ科 (Rubiaceae) のクチナシGardenia jasminoides Ellis の果実で、ときには湯通し又は蒸したもの。

 6月から7月にかけてクチナシの純白の花が開花し甘い香りを漂わせてくれます。クチナシの自生種は、日本では本州の静岡県以西、四国、九州、南西諸島の林縁などに生育しています。ジャスミンのような甘い香りを発する純白の花は園芸価値が高く、各地の花壇や庭で栽培されています。開花後に黄緑色の子房の部分が成長し、晩秋には黄赤色に熟します。果実には先端部に線形のガク片が残っており、内部には多数の赤い粒状の種子が詰まっています。生薬の「山梔子」はこの果実を乾燥、あるいは湯通し又は蒸した後に乾燥したものです。突き出したガク片は乾燥過程で除去します。市場にはさらに果皮を除去して種子のみにした「梔子仁」もあります。漢方生薬として黄連解毒湯、加味逍遥散、茵蔯蒿湯などに配合される他、とくに食品業界では黄色色素としてもよく利用されています。

 近年、山梔子を含有する漢方処方の長期服用による腸間膜静脈硬化症という副作用が報告されています。山梔子の服用量と腸間膜静脈硬化症についての検討では、最低でも4年間の服用歴があり、累積服用量は約5,000 gと報告されています(BMC Complement. Altern. Med.、 16、 207、 2016)。その原因物質は、山梔子の含有成分であるゲニポシドと考えられ、腸内細菌により加水分解されてアグリコンになったゲニピンが大腸から吸収され、腸間膜静脈を通過する際に静脈壁の線維性肥厚・石灰化を引き起こしていると考えられています。漢方薬の服用歴がない患者さんの症例もあることから、山梔子が唯一の原因ではないようです。その症状は静脈の鬱滞、腸管壁の浮腫、線維化、腸管狭窄となり、腹痛(右側)や下痢、悪心やイレウスなどを呈する場合もあるようです。この際、病変部周辺には青色の色素沈着が認められ、これはゲニピンがアミノ酸やタンパク質と反応して生じたものと考えられています。これらの報告を受けて、2013年に黄連解毒湯、加味逍遥散、辛夷清肺湯の添付文書に、重大な副作用として腸間膜静脈硬化症が記載されるに至っています。2014年には茵蔯蒿湯に、さらに2018年には全ての山梔子含有医療用漢方製剤に記載されました。すなわち、重要な基本的注意として、「サンシシ含有製剤の長期投与(多くは5年以上)により、大腸の色調異常、浮腫、びらん、潰瘍、狭窄を伴う腸間膜静脈硬化症があらわれるおそれがある。長期投与する場合にあっては、定期的に CT、大腸内視鏡等の検査を行うことが望ましい。」、また重大な副作用として、「長期投与により、腸間膜静脈硬化症があらわれることがある。腹痛、下痢、便秘、腹部膨満等が繰り返しあらわれた場合、又は便潜血陽性になった場合には投与を中止し、CT、大腸内視鏡等の検査を実施するとともに、適切な処置を行うこと。なお、腸管切除術に至った症例も報告されている。」と記載されています。

 さて、先に山梔子は黄色の染料として利用されると記しました。山梔子にはカロテノイド色素であるクロセチンとその配糖体のクロシンが含まれており、これが水溶性の黄色色素として「きんとん」や「たくあん」などの着色に利用されています。また山梔子から作られる色素は黄色以外に青色と赤色もあります。含有成分であるゲニポシドの化学構造を変化(配糖体の加水分解)させて得られるゲニピンを、タンパク質分解物を反応させることで青色色素が得られます。同様にゲニポシドを別の変化(メチルエステルと配糖体の加水分解)をさせて得られるゲニピン酸を、同様にタンパク質分解物と反応性させることで赤色色素が得られます。これらの色素は高分子であり、正確な化学構造は不明です。しかし天然の材料だけで製造されることから天然着色料として認可されています。結果として山梔子由来の化合物で色の三原色が揃い、天然色素のみで様々な色を作り出すことに大きく寄与しています。ちなみに腸間膜動脈硬化症で見られる青色の色素沈着から、原因として山梔子に目が向けられたこともこれで説明がつきそうです。

(神農子 記)