基源:スベリヒユ科(Portulacaceae)のスベリヒユPortulaca oleracea L.の全草。

 スベリヒユ科は世界に約19属500種が知られる草本や低木からなる分類群です。ヨーロッパ、アジア、南・北アメリカ、オーストラリアおよび南アフリカに分布し、中でも北アメリカ西部で最も多様な種が見られます。最近では花が比較的大きくて美しい種がポーチュラカの名称で園芸店で売られています。科を代表するスベリヒユは世界各地の温帯から熱帯にかけて分布する一年生の多肉草本で、乾燥や塩害にも強く、繁殖力も高いことから各地で食用として利用されてきました。日本でも畑の雑草として普通に見られ、東北地方や沖縄県などで食用野菜として親しまれています。一方で古くから薬用にも利用され、中国医学では全草を馬歯莧と称しています。

 馬歯莧は『開宝本草』に初収載されました。その後、蘇頌は「馬歯莧は莧類の名があるけれど、苗、葉は莧と全く似ていない。一名五行草というのは、その葉が青く、梗が赤く、花が黄、根が白く、子が黒いからである」といい、李時珍は「その葉は馬歯のように並んでいるもので、性が滑利で莧に似ているから名付けたものだ。俗に大葉のものを㹠耳(とんじ)草、小葉のものを鼠歯莧と呼ぶ」と言っています。また、薬効に関して『蜀本草』には「馬莧、味酸、寒、無毒、諸腫瘻、疣目、屍脚、陰腫、胃反、諸淋、金瘡内流を主治し、血癖、癥瘕を破る。汁で洗えば繁唇、面皰を去り、射工、馬汗の毒を解す。一名馬歯莧、小児は宜しく之を食すべし。此の物には二種あって、葉の大きなものは使用に耐えない。葉が小さなものは至って乾燥し難い。乾かすには槐木槌で砕き、東面して日光に向けて作った架上で晒すと、3日ほどで幾年か乾かしたもののように乾く。薬に入れるには茎を去るべきで、茎には効力がない。概ねこの草は能く腸を肥し、人をして食を思わざらしめる」とあります。

 スベリヒユは全体に光沢がありなめらかで無毛。高さは20〜30cm、茎は円柱形で平伏するか斜上し、基部から四方へ分枝します。日に当たる面は通常淡紅褐色または紫色を帯びています。葉は互生もしくは対生し、葉柄は非常に短く、葉身は厚みのある多肉質で倒卵形またはへら形、長さ10〜30mm、幅5〜14mm、先端は鈍円形、時にやや欠け、基部は広い楔形、全縁、上面は深緑色、下面は暗紅色。花は両性で、小型で黄色。通常3〜5個が枝の頂端の葉腋に束生します。花弁は5枚、倒心臓形で先端はややへこんでいます。花後につく蒴果は短い円錐形で褐色、上半分が蓋のように離れ、中には多くの黒褐色の細かい種子が入っています。開花期は5〜9月、結実期は6〜10月。

 薬材としては花も実もある最盛期に採集され、そのまま乾燥した全草はしわが寄って丸くなり、塊になっています。新鮮な時は太くて水々しい茎は乾くと細くなってねじれ、表面は黄褐色から緑褐色で、明瞭な縦の溝があります。質はもろく折れやすいものです。特殊な香りがわずかにあり、味はやや酸っぱく粘性があります。全体が小さく、質が柔らかく、葉が多く、青緑色のものがよいとされています。

 成分的には、全草に特徴的にノルアドレナリンやドパミンなどの神経伝達物質が含まれますが、経口では作用しません。その他、フラボノイド、クマリン類、強心配糖体、アントラキノン配糖体など、多様な成分を含みます。中国医学における薬効は清熱解毒で、涼血、利腸の力があり、諸痢疾および瘡瘍を治すのに用いられます。李時珍は「馬歯莧の諸病に手効のあるのは、いずれもただその血を散じ、腫を消す効力を取るのである。その主治するところは、血を散じ、腫を消し、腸を利し、胎を滑し、毒を解し、淋を通じ、産後の虚汗を治す」といっています。また、野菜としてはミネラル、ビタミン、タンパク質やオメガ3系脂肪酸などを含んで栄養豊富です。新鮮品は、中国では炒め物、日本ではお浸しが一般的な食べ方ですが、サラダとして生食することも可能です。山形県では乾燥して保存食にもされます。意外に美味な食材ですので、機会があれば是非試していただきたいと思います。

(神農子 記)