基源:バラ科(Rosaceae)のオオカナメモチPhotinia serratifolia Kalkmanの葉。

 日本と中国で同じ漢字表記でも意味が異なるものがいくつかあります。石南葉もその一つです。日本では「石南花」はツツジ科のシャクナゲを意味し,葉を「石南葉」としてきましたが,中国ではシャクナゲは「杜鵑」と書き,「石南葉」はバラ科のオオカナメモチの葉を意味します。

 「石南葉」は『神農本草経』の下品に初収載された薬物です。陶弘景は「今東部地方にいずれもある。葉は枇杷葉のようなものだ。方に用いることは一向に稀である」といい,寇宗奭は「石南葉は枇杷葉の小さいものに似ているが,背に毛がなく,光っていて皺まない。正月や二月の間に花を開く。冬は二葉があって花苞をなし,苞が既に開くと中に十五餘の花があり,大小椿花のような甚だ細砕なもので,毎一苞がおよそ弾ほどの大きさで一毬を成し,一花六葉で一朶に七,八毬あり,淡白緑色で葉末が淡赤色である。花が既に開くと蘂が花全体に満ち,ただ蘂だけが見えて花が見えない。花が纔(わずか)に罷(や)む(花が終わりかける)と,去年の緑葉が盡(ことごと)く脱落して,漸次新葉を生ずる。京洛,河北,河東,山東には頗(すこぶ)る少ない。一般にもそれゆえ用いることが少ない。湖の南北,江西,二浙にははなはだ多い。それゆえ一般に多く用いる。」と言っており,花期は合致しませんが,花が椿(チャンチン)のように小さいという記載からオオカナメモチであるように思われます。名義については,李時珍が「石間の陽に向かった處に生ずるところから石南と名付けられたのだ。桂陽では風薬と呼んで茗に充て,酒に浸して飲む。能く頭風を癒するところから名付けられたのだ」と述べています。

 オオカナメモチは日本でよく生垣に使用されているカナメモチよりも大きく,中国中南部,台湾,インドネシアなどに分布します。日本では沖縄県など暖地に自生し,しばしば栽培されています。常緑小高木で,高さは通常数メートル程度ですが時には10メートルを超え,多く分枝し,樹冠は円形となります。葉は互生し葉身は革質で,上面は深緑色で光沢があるのが特徴的です。葉身は長楕円形か長倒卵形で,長さ8-16 cm,幅3-6 cm,縁には細い鋸歯があります。花は頂生する直径10-18 cmの円錐状の散房花序につき,花弁は白色5枚で広卵円形です。

 オオカナメモチの葉の含有化学成分としてはモノテルペン,セスキテルペン,トリテルペンなどが知られ,sabinene,pinene,elemene,ursolic acid,euscaphic acidなどが報告されています。鎮痛,利尿,強壮薬として痛風やリウマチの痛み,腎臓病などに応用され,また川芎,白芷,天麻,女貞子などを配合して偏頭痛に利用する方剤もあります。

 一方,日本では室町時代の『下学集(かがくしゅう)』に「石南華(シャクナゲ)」と記載されて以来,『和漢三才図会』や『本草綱目啓蒙』にも「石南」の記載があり,「深山幽谷に生ず,高さ六,七尺叢生す,葉は石韋葉に似て厚く,末広く本狭く,面深緑色,背に褐毛あり,冬を経ても枯れず,枝梢ごとに簇りて互生す。四月其上に花あり,形躑躅花(ツツジ)に似て大なり,五瓣より七,八瓣に至り,齊しからず。淡紫色凡そ数十花簇(むらが)り開く,望遠すれば淡紫色牡丹花の如し」との記載からシャクナゲを充てていたと考えられます。シャクナゲは厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルにも記載があるように嘔吐,下痢,痙攣などを起こす有毒植物としても知られていることから注意すべき植物です。「石南葉」は『神農本草経』の下品(有毒植物類)に収載されていることや,気味が「辛苦平有毒」と記されていることからも作用が強い薬物であることが窺えます。一方,オオカナメモチが有毒植物と認識されていないこと,日本では多くの薬草を中国から学んできたことなどを考えると,かつては中国でも地方的にシャクナゲに由来する石南があった可能性も考えられます。何れにしても異物同名品としてのシャクナゲの使用には注意が必要です。

(神農子 記)