基源:バラ科(Rosaceae)のボケChaenomeles speciosa (Sweet) NakaiまたはカリンPseudocydonia sinensis (Thouin) C.K.Schneid.の成熟果実を横割りもしくは縦割りして乾燥したもの。

 晩秋に里山を歩いていると,甘酸っぱいフルーティーな香りが漂ってくることがあります。カリンの香りです。その黄色く大きな果実は秋の青空によく映え,葉の落ちるその姿からは冬の訪れを感じます。カリンは中国原産の植物で,いつ頃日本に導入されたのかは定かではありませんが,現在では庭木や盆栽として利用されるほか,果実をジャムやシロップ,果実酒などを作る目的で栽培されてきました。薬用としても身近な植物で,日本では木瓜と称して鎮咳去痰薬として利用しています。しかし,近縁種のボケも同様に木瓜と称し薬用として利用されています。これらはかつて同属植物と考えられていましたが,現在では異なる属に分類されています。

 薬物としての木瓜は『名医別録』の中品に収載され,「湿痺脚気,霍乱で大いに吐下するもの,轉筋の止まらぬものを主治する」と記載されています。『爾(じ)雅(が)』に「楙(ぼう)は木瓜なり」とあり,郭璞の註に「木の実である。小さい瓜のようで,酸っぱくて食えるものだ」とあり,李時珍は「木瓜なる名称はこの意味を取ったものだ」といっています。蘇頌は「木瓜は處々にあるが,宣城のものが佳い。木の状態は柰のようで春末に深紅色の花を開く。その実は大なるは瓜ほど,小なるは拳ほどで,表面が黄で粉をつけたようだ。宣州地方ではこれを非常に大切にして栽培し,山にも谷にも一面にある。榠樝(めいさ)というのは木瓜に酷似したものだが,ただ蔕の部分を看て,別に乳のような重蔕のあるものは木瓜であり,ないものは榠樝である」といい,木瓜と榠樝の別を明らかにしています。現在中国市場には「皺皮木瓜」と「光皮木瓜」の2種類ありますが,前者がボケに由来する古来の木瓜であり,後者はカリンに由来する榠樝であると考えられます。一方,日本では区別なく総じて木瓜と称し,特にカリンに由来するものを和木瓜と呼ぶこともあります。

 カリンは高さ10 m前後の落葉高木で,枝にはとげがなく,葉は単葉で互生し,楕円状卵形あるいは長楕円形または倒卵形,長さ5〜8cm,幅3〜5cm,先端は鋭い鋸歯があります。上面は無毛ですが下面は毛でおおわれており,後に脱落することがあります。花は頂端に単生し,葉と同時に出るか葉より先に咲き,直径3cm前後。花弁は淡紅色,倒卵状楕円形,長さ約15mmです。開花期は4〜5月で,結実期は9〜10月です。一方のボケは高さ2〜3m前後になる落葉低木で,枝は褐色でとげがあり,皮目がはっきりしています。葉は卵形〜楕円状披針形で,長さは2.5〜14cm,幅1.5〜4.5cm,先端はとがるか鈍円形で,基部は幅広い楔形〜円形,縁には線状の鋭い鋸歯があります。上面は緑色,下面は淡黄色で,両面とも無毛ですが,幼時期に下面の中肋上には淡褐色の柔毛があります。花は緋紅色か白色や帯白紅色で,花柄はきわめて短く,数個が集まって咲きます。開花期はカリンより少し早い3〜4月,結実期は9〜10月です。なお,よく似たマルメロCydonia oblongaは別属のセイヨウカリン属で,カリンと酷似していてしばしば混同されますが,カリンの葉は細かい鋸歯があるのに対し,マルメロにはそれがなく,果実もカリンは無毛でマルメロは綿毛におおわれる点で異なっています。

 薬効について南宋の鄭樵は「榠樝も木瓜も同じ類のものであり,その形状,効能は甚だしく異なることがない。ただ木瓜は木の正気を得ているので貴ばれているだけである」とし,日本でも同様に両者を区別せず使用しています。実際,榠樝と木瓜は共通して鎮咳・去痰に関する記載がみられます。加えて,『名医別録』に木瓜は「轉筋の止まらぬものに」とあるように,古来こむら返りに使用されてきました。ボケやカリンの根元に転がっている黄色い果実を見るたびに勿体ない気がします。知らずに捨てられているのかも知れませんが,シロップ漬けなどにして咳止めに利用している人が多い中,こむら返りにも有効であるなら,もっと身近に利用されても良い生薬だと思われます。

(神農子 記)