基源:ゴマノハグサ科 (Scrophulariaceae) のRehmannia glutinosa Libosch. ex Fisch. et C.A.Mey. の根茎の肥大部を乾燥したもの(乾地黄),又はそれを蒸したもの(熟地黄)。

 近年主流になりつつある植物分類体系にAPG(被子植物系統グループ,Angiosperm Phylogeny Group)があります。特定遺伝子領域のDNA配列に基づくもので,植物の外部形態の類似性に関わらずに近縁関係を明らかにすることができます。1998年に公表されてから情報量が増え,少しずつ改変されてきました。現在,主に使用されるのは APG III や APG IV です。分類体系の変化により,所属する科の帰属が変化する場合があります。例えば従来の新エングラー体系のカエデ科はなくなり,ムクロジ科に含められました。ユリ科はクサスギカズラ科,ヒガンバナ科などに分割されました。ジオウが属する旧来のゴマノハグサ科の植物については,ジギタリスがオオバコ科,キリがキリ科,コゴメグサがハマウツボ科にそれぞれ分かれました。今回話題のジオウは,APG体系では当初はオオバコ科に類似とされながらもジオウ科(Rehmanniaceae)として独立しましたが,その後再びゴマノハグサ科に戻り,さらにAPG IV ではハマウツボ科に組み入れられました。このように Rehmannia属は新分類体系での帰属が落ち着いていません。

 ジオウは中国の北中部から朝鮮半島にかけて自生している多年生草本です。種子もできますが,通常は根茎を短く切ったものを苗にして栽培生産します。成長が早く,春に定植すると初夏には開花するものが見られます。花は大型筒状で,この形状からはジギタリスやキリの花との類似性を強く感じさせます。ロゼット状に生えるサニーレタスのような広卵形の葉には多数の腺毛が生えています。葉は柔らかく,強風で折れやすく傷つきやすく,そこから菌が入り込む恐れがあります。よって,植物自体は病気や湿度に弱く,栽培するには気を使う植物です。

 日本で栽培される地黄の原植物はアカヤジオウvar. purpurea Makinoとカイケイジオウvar. hueichingensis Chao et Schihに分けられます。アカヤジオウは花部の赤味が強いとされる変種で,根茎部がほとんど肥大せず,生産効率が悪いことから生産目的で栽培されることはありません。一方のカイケイジオウの名称は,中国の「懐慶府(現在の河南省北部)」で盛んに生産されてきたことに由来します。この変種はアカヤジオウと異なり,サツマイモのような肥大した根茎部が複数個でき,生薬生産に適しています。

 秋に収穫した根茎の肥大部が鮮地黄です。鮮地黄を乾燥したものが乾地黄,そして乾地黄を酒と共に蒸したものが熟地黄です。1種類の植物から薬性が異なる三種類の生薬が作られます。日本で地黄として使用されているものは乾地黄で,通常は鮮地黄を加熱乾燥したものです。熟地黄は乾地黄を蒸したものですが,黄酒や紹興酒とともに蒸したり,他の生薬を添加したりすることもあるようです。蒸す工程と曝す工程をそれぞれ九回繰り返す,九蒸九曝(くじょうくばく)という方法がよく知られています。

 このように,日本の気候では栽培が難しいうえに収穫物の加工に非常に手間がかかります。また,連作障害が非常に強い植物種でもあります。しかし歴代の産地である中国河南省では,気候が栽培や生産に適していると同時に,効率的な生産のための系統株の選抜が進み,加工工程の機械化も進んでいます。こうして生産された地黄が安く安定して日本に入ってきている現状では,日本での地黄生産は非常に不利な状況にあると言えます。今後,国産化を指向するには中国の取り組みを見習うことも必要でしょう。

 地黄の化学成分としてスタキオースやラフィノースなどの少糖類やカタルポール(イリドイド配糖体)などが報告されていますが,これらの成分で地黄の薬効の説明はできません。しかも乾地黄への乾燥条件によってはカタルポールが大きく減少し,少糖類は加水分解されて単糖になります。地黄の薬効は特異な二次代謝産物によるものではなく,一次代謝産物をも含めた種類と濃度の組み合わせによるようで,ジオウは分類のみならず成分的にも不確実な要素がある植物です。

(神農子 記)