基源:ウラボシ科(Polypodiaceae)のハカマウラボシ Drynaria fortunei (Kunze) J. Smith の根茎を乾燥したもの。

 骨砕補は、その名称から類推されるように接骨、止痛のみならず外科の要薬として古くから使用されてきた薬物です。骨砕補の名称について陳蔵器は「骨砕補の本来の名は猴薑だが、開元の天子玄宗皇帝が傷折を治療して骨砕を補する能あるところから名をつけたのだ」と記しています。「胡猻薑」、「石毛薑」、「石菴䕡」など異名や異物同名品が多く存在していますが、これらは原植物の違いではなく、産地や生態、形態的特徴から名付けられたものであると考えられています。

 原植物の形態について、宋代の馬志は『開宝本草』に「骨砕補は江南に生じる。根は樹や石の上につき、毛葉があり、菴䕡のようだ」と述べ、同じく宋代の蘇頌は『図経本草』に「今淮浙、陝西、夔路の州郡に皆ある。木や石の上に生じ、多くは日陰の処にあって根を引き條を成し、上に黄赤色の毛と短葉が附き、また大葉が抽出して枝になる。葉の表面は青緑色で青黄色の点があり、裏面は青白色で赤紫の点があり、春生えた葉が冬になると乾いて黄色になる、花も実もない。根を採って薬に入れる」と述べています。これらの記載から古来薬用とされた骨砕補の原植物は明らかにウラボシ科の Drynaria 属植物であると考えられ、現在ではハカマウラボシD. fortuneiを充てています。

 ハカマウラボシは着生のシダ植物です。樹木、山林中の岩壁、塀などの表面に付着します。中国南部や台湾などに自生し、日本では沖縄県のみに自生しています。環境省レッドリストのカテゴリーでは絶滅危惧ⅠA類に分類されている希少な植物です。高さは20〜40 cmです。葉の形状は2種類あり、栄養葉は厚い革質で赤褐色あるいは灰褐色、卵形で葉柄はなく、長さ5〜6.5 cm、幅4〜5.5 cm、縁は羽状浅裂し、まるでカシワの葉のようです。もう1種類の胞子葉は緑色で、翼をもつ短い葉柄があり、葉身は菱形あるいは長楕円形、長さ20〜37 cm、幅8〜18.5 cm、羽状深裂します。羽片は6〜15対あり、広披針形あるいは長楕円形で、長さ4〜10 cm、幅1.5〜2.5 cm、先端は鋭形あるいは鈍形、縁は通常不規則なさざ波形、基部の2〜3対の羽片は縮んで耳形、両面ともに毛はなく、葉脈ははっきりとしており、細脈が連なって4〜5列に並び長方形の網目を形成しています。胞子嚢群は円形で、黄褐色、中央脈両側に各2〜4列に並び、葉脈の網の目の中に1個ずつ着生し、包膜はありません。根茎は多肉質で太く、長くかつ横走し、黄褐色で線状ないし三角状披針形の鱗片に密に覆われています。

 原形生薬は細長く扁平でねじ曲がっており、通常分枝がみられ、長さ6〜20 cm、直径0.5〜2 cm、厚さ2〜4 mm。表面は淡褐色ないし暗褐色で細かい鱗片で密に覆われています。鱗片は黄褐色ないし褐色で毛のように柔らかく、鱗片を除去する際に火で炙ったあとに残った鱗片は褐色ないし濃褐色に変わります。両側面および上面には突起した、あるいはくぼんだ円形の葉痕があり、質は堅く折れやすい。断面はほぼ平坦で、赤褐色、散在する黄白色の繊維束がほぼ環状に並びます。においはなく、味はうすく少し渋い。太く扁平なものが良品とされます。一般に中国では鱗片を除去したものを「骨砕補」、鱗片をつけたままのものを「申姜」または「猴姜」と称しています。

 骨砕補にはデンプンや糖類の他、フラボノイド、フェニルプロパノイド、テルペノイドなどが含まれており、補腎、活血、強筋骨作用を期待して、骨折や打撲、捻挫、腎虚の歯痛や耳なりなどに応用されています。処方として骨砕補、自然銅、虎脛骨、炙亀板、没薬を配合した骨砕補散などがあります。近年骨砕補に含まれるナリンジンには破骨細胞の生成抑制作用が、ナリンジンの代謝物であるナリンゲニン、ナリンゲニングルクロン酸抱合体は脳内に移行し、アルツハイマー病における記憶改善作用があると報告されています。中医学では、腎は骨を主り髄を生じ脳に通じる、と考えられており、これらの研究によって補腎薬である骨砕補が骨や脳に作用することを科学的に証明しています。

 

(神農子 記)