基源:山滋姑は、ラン科(Orchidaceae)のサイハイラン Cremastra appendiculata (D. Don) Makino の偽鱗茎を乾燥したもの。別名は山滋菇、毛滋菇。光滋姑は、ユリ科(Liliaceae)のアマナ Amana edulis (Miq.) Honda の鱗茎を乾燥したもの。日本市場では光滋姑を山滋姑として流通させている。

 サイハイランという、花序の形が戦国時代の侍大将が軍勢の指揮に使用した「采配」に似ている、ラン科植物があります。サイハイランは日本全土に分布していますが個体数が少ないため、私たちは通常見かけることは少なくなりました。そのような貴重なランの偽鱗茎(仮鱗茎)が山滋姑という生薬になります。

 サイハイランは日本から、台湾、中国、ヒマラヤ地域にまで分布し、山地に生育する多年草です。葉は通常1枚、長だ円形で長さ20〜40 cm、幅 4〜8 cm、無毛で3脈が目立ちます。この葉は偽鱗茎から頂生し開花前後に枯れ始めます。花茎は偽鱗茎の先端から直立し、高さ30〜50 cm になります。花は 5〜6 月に花茎の上部に多数、やや変側性の花序を形成し、下向きに垂れて咲きます。花は長さ3〜3.5 cm程、黄緑色から紫色と変異が多く、弁はあまり開きません。

 中華人民共和国薬典では「山滋菇」として収載され、別に同じラン科の Pleione bulbocodioides (Franch.) Rolfe、P. yunnanensis Rolfe も規定しています。サイハイランとPleione由来の両者はそれぞれ区別して「毛滋菇」と「冰球子」と称されることもあります。P. bulbocodioidesは花茎の頂端に花を1つ付け、花弁は長さ約 4.5 cm のピンク色の植物です。

 「山滋菇」は中国の貴州省、四川省などで生産されています。夏と秋に収穫し、地上部と泥砂を除去した後、大小別に分け、沸騰水で完全に煮て乾燥させて生薬とします。生薬の形状は不規則な偏球形または円錐形で直径1〜2 cm、頂端に突起があり、黄褐色で縦じわがあり、中部に環節が数本あります。この節に糸状の繊維が残っており、これが「毛滋菇」という別名の理由です。硬く折れにくく、断面はやや角質様です。味はうすく、かすかに芳香があり、水につけると粘性を帯びます。大きくて内部が充実して質が堅いものを良品とします。一方「冰球子」は球円形で中央にくびれた部分があるまたは不規則な塊で緩やかに突出した頂端があり、直径は 1〜1.5 cmです。断面は角質で半透明でかすかににおいがあり、味は淡白でわずかに苦く、やや粘るなどの特徴があります。

 『本草綱目』には「山滋姑は諸所にある。冬季に水仙花の葉のような狭い葉が生え、その葉が二月中に枯れてから箭簳のような高さ一尺ばかりの一本の茎端に白色の花を開く。また紅色、黄色のものがあり、上に黒点がある。多数の花が簇(むらが)って一朶となり紐を結び合わせて作ったような可愛い形のものだ。三月に三稜のある子を結び、四月の初に苗が枯れる。その頃根を掘り取るのだが、その形状は滋姑か小蒜のようだ。時季が遅れると苗が腐って所在が判らなくなる。根と苗は老鴉蒜に極めてよく似ているが、老鴉蒜には毛がなく、この滋姑は毛殻に包まれている点が異なるだけだ。用いるには毛殻を取り去る」とあります。この記載から古来の山滋姑の原植物はサイハイランとは花の色や花序の形などがかなり異なり、考証の余地が残されています。

 また老鴉蒜とはアマナのことと考えられており、アマナの鱗茎に由来する生薬が「光滋姑」です。生薬は卵形または円錐形で高さ0.7〜1.5 cm、直径 0.5〜1.0 cm と、山滋姑と比較すると小型です。底は丸くくぼみ、上端は急に尖っています。表面は黄白色、断面は白色で、質が詰まっているものが良品とされています。このように山滋姑と光滋姑は外形でも区別が可能です。

 山滋姑の薬効として『本草綱目』に「主に疔腫を治し、毒を攻め皮を破る。諸毒、ヘビによる咬傷、虫による刺傷、狂犬病を解く」とあり、光滋姑は『湖南薬物志』に「無名腫毒の治療、顔面にできた小さい疔瘡の治療」とありますから、両者は原植物がかなり異なるとは言え薬効的には似たところがあります。

 ラン科の植物はワシントン条約により国際的な取引が禁止されていますので、サイハイランに由来する山滋姑は日本では使用できません。よって、山滋姑を使用するに際し、日本市場の山滋姑はアマナに由来する光滋姑であることを理解しておく必要があります。

 

(神農子 記)