基源:フジマメDolichos lablab Linne (マメ科Leguminosae)の種子。

 扁豆は、『名医別録』中品に原名「篇豆」で「味甘、微温。中を和し、気を下す。葉は霍乱して吐下しが止まらないものを治療する」と初収載されています。『第15改正日本薬局方』に「扁豆」で収載され、『中華人民共和国薬典』では「白扁豆」の名称で収載されています。中国医学では去暑薬として健脾和中・利湿消暑に働き、暑邪挟湿による嘔吐・腹満・腹痛・下痢などに使用され、また、酒・魚介類・フグなどの中毒にも用いられます。

 原植物とされるフジマメは熱帯に生育するつる性の多年草ですが、温帯では一年草となります。葉は無毛でクズなどと同様に3枚の小葉からなり、花は紫色あるいは白色で、莢(豆果)は3〜6cmの扁平な楕円形で先端に花柱が残っており、湾曲したくちばし状を呈しています。扁豆の名は莢の形状が扁平であることに由来するとされています。フジマメの若い豆果は、日本の八百屋では「センゴクマメ」「アジマメ」などの名で売られています。

 『神農本草経集注』には、「莢を蒸して食するととても美味である」と、食用にも利用されたことが記載されています。薬用としては『図経本草』に、「扁豆には黒色と白色の二種があり、白色は性が温であり、黒色はやや冷であるため、薬には白色を用いる。」と記載され、李時珍は「種子の色は黒、白、そのほかに赤、斑などがあり、豆子の粗く丸くて白色のものだけが薬用にされる。」としており、また「使用時には殻が硬いものを選び、そのまま炒熟して薬に入れる。・・・硬殻白扁豆は子が充実しており、白く微かに黄色く、風は腥香で、性は温・平で中を和し、専ら中(脾胃)の病を治す。暑さを消し、湿を除き、毒を解す。殻が軟らかい種子や黒鵲色の種子は性が微涼であるため薬用とはされず、食用にされて脾胃を調える。」としています。

 豆の色の違いについて、『中国植物誌』には白花の品種には白色、紫花の品種には紫黒色の種子が入っていると記されています。

 わが国では『和漢三才図会』に「藊豆」と「白扁豆」が記載されています。藊豆は和名「阿知萬女」、俗名「隠元豆」とされ、「若い莢は煮て食し、熟すると硬く食用にはならず、豆は栗色あるいは黒色となり、種とされる。一種に花葉は同形であるが、莢に微毛があり、堅くて食べられずカキマメと呼ばれるものがある。」と記載され,白扁豆は「藊豆の白くて扁いもので、その花の色は白く、日向(宮崎県)に出るものが良品で、山州(京都)、摂州(大阪)のものがそれに次ぎ、唐のものに勝る。」とされています。

 また、『本草綱目啓蒙』には「薬用にする白扁豆は、苗葉は鵲豆(扁豆)と同じであるが、莢の幅は広く、内側に硬い殻があり、未熟でも煮て食うことは出来ない。豆は白い鵲豆に似ているが同じではない。」と記載されており、白扁豆は単に扁豆の白いものではなく、別の分類群であるように思われます。よって、八百屋で売られているフジマメとは異なるようです。

 豆類の分類はまだ不確定で,種数そのものもハッキリしていません。扁豆の学名についても、柱頭下に毛があるか否かなど花柱の形態の違いからDolichos 属からLablab属に移すべきとする説もあり、実際『中国植物誌』ではLablab purpureaの学名が採用されています。

 白色種子が薬用にされる化学的詳細についても明らかではありませんが、薬用にされる大豆類は肝・腎に働き、五色の中でも黒いものがよいとされ、一方、心・小腸に働く小豆類は赤いもの(赤小豆)が薬用とされるように、脾胃に作用する扁豆は黄白色のものが薬用にされるという点では、陰陽五行説に適っているといえます。

(神農子 記)