基源:独活はAngelica pubescens Maxim. f. biserrata Shan et Yuan(セリ科Umbelliferae)の根,およびその他同属植物の地下部。またはウドAralia cordata Thunb.(ウコギ科Araliaceae)の根。羌活はNotopterygium incisum TingまたはN. forbesii Boiss.(セリ科Umbelliferae)の地下部。

 「独活」は『神農本草経』の上品に収載された?風,散寒の要薬です。?風とは風邪を去ることを意味し,『名医別録』には風がふいても揺るがないことから「独活」の名がついたと記載されています。また,「羌活」は『神農本草経』で独活の別名として記載されていますが,現在では?風薬の一つとして「独活」とは区別されています。

 「独活」と「羌活」が別生薬として認識されたのは古く,5世紀末に梁の陶弘景が「羌活は形が細く,節が多く,柔らかくて潤いがあり,においがきわめて猛烈である。(中略)独活は色が微白色で形が虚大である」と記載しています。また,『図経本草』(1061年)や『本草蒙筌』(1525年)には「黄色で塊を為すものを独活とし,紫で節の密なるものを羌活とする」と記載されています。

 両者の薬効の違いについては,『新修本草』(659年)に「風を療するには独活,水を兼ねるには羌活」とあります。時代が下って,『本草求真』(1773年)には「独活は水湿伏風を療し,その気は濁で,血を行らして営衛の気を温めて養い,また表を助ける力がある。下焦を行り下で理えるので伏風頭痛,両足湿痺を治す。羌活は水湿遊風を療し,気は清で,気を行らして営衛の邪をはきだし散らし,また発表の効能がある。上焦をいって上で理えるので,遊風頭痛,風湿骨節疼痛を治す」と薬効の違いが詳細に記されるようになりました。よく似た薬効でありながら区別されていたということは,やはり両者の基源が異なっていたことを意味するでしょう。

 独活の原植物として,現在中国ではセリ科の重歯毛当帰 Angelica pubescens Maxim. f. biserrata Shan et Yuanの根が『中華人民共和国薬典』に規定されていて,その他のAngelica属植物に由来するものとして,川独活,香独活,牛尾独活などが流通しています。また,ウコギ科のウドAralia cordata Thunb. も九眼独活と称して流通しています。このように異物同名品が多く,市場でも混乱しているのが現状です。一方の「羌活」の原植物として,薬典ではセリ科のNotopterygium incisum Ting およびN. forbesii Boiss. が規定され,根茎及び根が薬用部位とされます。

 日本では『本草和名』(918年)の獨活の項に「和名宇止」という記載があります。また,『大和本草』にも獨活について「本邦昔ヨリウドノ母ヲ獨活トシ其小根ヲ羌活トス」とあり,現在でもウドに由来するものが「和独活」「和羌活」として流通しています。現在中国でもウドが利用されているように,ウドとの混乱も古くからあったようです。このように「独活」,「羌活」の原植物は混乱していますが,セリ科植物には類似したものが多く,またウドの葉もセリ科植物に似ていることが混乱の原因と考えられます。

 独活を構成生薬とする代表的な処方としては「独活寄生湯」,羌活には「疎経活血湯」があげられます。「独活寄生湯」は,『備急千金要方』(7世紀中期)に収載され,「腰背痛を治す。…脚膝が冷たくなって痺れ疼くもの,或いは腰に攣痛があり足が重く痺れるものによい」とあります。また「疎経活血湯」は『萬病回春』(1587年)に収載され「体に刺すような痛みが走るものを治す」とあります。どちらの処方も現在では関節痛・腰痛・慢性関節リウマチ等によく用いられますが,「独活寄生湯」は下半身の冷えや痛み等に特に効果があり,「疎経活血湯」は全身の関節痛やしびれに適していることが大きな特徴とされます。これは「独活」は血分に入って主に下半身に薬効を示し,「羌活」は気分に入って全身,特に体表面に効果を表すことに関連しているのかもしれません。もちろん他薬との相互作用があってのことです。

(神農子 記)