基源:アカメガシワ Mallotus japonicus Mueller Argoviensis (トウダイグサ科Euphorbiaceae)の樹皮。

 アカメガシワは,本州の宮城,秋田両県以南,四国,九州,西南諸島,また朝鮮半島,台湾,中国に分布する雌雄異株の落葉高木です。葉が大型で5月頃に出る新芽が赤いことからアカメガシワ(赤目柏,赤目槲)の名前があり,また葉脈が赤いことに由来するとする説もあります。互生する葉の基部には1対の花外蜜腺があります。属名のMallotusは,果実に白色の長い腺毛をもつことを表しています。山麓の開拓地に最初に生える植物として知られ,種子が発芽して生じた株は直根を発達させますが,横に伸びた根から萌芽して生じた株には直根が発達せず,根が浅いために急斜面に生じた株の多くは地上部の生長に伴なって自重に耐えきれなくなって倒れてしまうことが知られています。

 アカメガシワの樹皮は古来,我が国で民間的に胃腸疾患に用いられ,葉は腫物に外用されてきました。葉が食べ物を盛る器に利用されたことから,『和漢三才図会』には「菜盛葉」の名称で収載され,「葉は苦甘で,小児の胎毒,草による瘡を治す。五香湯に入れて用い,葉を煎じた汁は染色に用いられた」とあります。樹皮は『第13改正日本薬局方』から健胃剤として収載され,主に医薬品製造に供されています。『中華人民共和国薬典』には収載されていませんが,中国では本植物を「野梧桐」と称し,樹皮,根,葉などが胃腸病薬として利用されています。

 また,同属のMallotus philippensisの果実の腺毛が「カマラ」の名称で日本薬局方の第1版から第8改正版まで,条虫駆虫薬として収載されていました。このものは本来アーユルヴェーダ薬物で,中国でも「呂宋楸毛」の名称で同様に使用されています。その他の同属植物としては,中国でM.apeltaの根や葉が清熱活血,収斂去湿薬とされており,また各種同属植物の種子油が工業用に用いられています。

 アカメガシワにはこれまで種々の漢名があてられてきました。『本草綱目啓蒙』には「梓」の名で収載され,「山野に多く自生し,高さ二丈余り,葉は三尖で鋸歯があり,大きさは三四寸,茎赤く互生する。その嫩芽ははなはだ赤く,藜芽のようで,しばらくすれば緑色に変化する。」とよくその特徴が記されています。一方,『大和本草』では「楸樹」の名で,「桐の葉や梓の葉に似ている。苗と葉の茎葉の筋が赤いため赤目柏という。梓の実は長莢があるが,楸の実は長莢がない。」と記載しており,アカメガシワに「梓」や「楸」があてられてきましたが,本来梓樹はノウゼンカズラ科のCatalpa ovataキササゲ,楸樹はCatalpa bungeiトウキササゲであり,どちらもアカメガシワとは異なります。葉の形がよく似ているところから混同されていたようです。また『神農本草経』に,「梓白皮:味苦,寒。三蟲を去り熱を治す。葉は搗いて猪瘡につける・・・」,また『本草拾遺』に,「楸白皮:味苦,小寒。三蟲および皮膚の蟲を殺し,吐逆を治す。葉は搗いて瘡腫につける。」とあり,薬効の共通点も混乱を助長した原因のひとつであったかも知れません。  アカメガシワは日本民間薬であり,また最近になって局方収載されたことから,主成分としてベルゲニンの含有が知られていますが,科学的な研究は余り進んでいません。今後,資源問題等をも含めて,さらなる研究が必要であると思われます。

(神農子 記)