基源:Alpinia officinarum Hance (ショウガ科Zingiberaceae)の根茎を乾燥したもの

 良姜は,『名医別録』の中品に「高良姜」の名で収載され,「大温,暴冷,胃中の冷逆,霍乱腹痛を主治する。」と記されています。

 陶弘景(隠居)は「高良郡に出る。」と云い,李時珍は「陶隠居はこの薑ははじめて産したところが高良郡であったからこの名称があるのだと言っている。按ずるに高良は当近の高州で,漢の時代には高涼県と言われ,−−−その地は山が高くて清く涼しいから地名がそのように呼ばれたというから,高良は高涼と書くのが正しいようである」としています。発音が同じなので「涼」が「良」に変わったものでしょうか。現在の広東省茂名県が治める地域です。

 姜の字が示すとおり,原植物はショウガ科植物に由来します。ショウガ科植物由来の生薬には他に,ショウキョウ,ウコン,ガジュツ,ショウズク,シュクシャなどがあり,それらは一般に根茎や種子に芳香と辛味を有します。その中で,良姜とショウガを加熱後乾燥した乾姜は,中医学ではともに散寒薬に分類され,散寒止痛,温中止嘔に働くよく似た薬物とされます。両者はともに脾胃に作用しますが,作用する臓腑に違いがあり,良姜は胃寒による浣腹冷痛,噫気嘔逆に適するのに対し,乾姜は脾寒による腹痛瀉泄に適するとされます。

 良姜が配合される繁用処方としては「安中散」が有名ですが,生姜に比べると使用頻度は格段に少ない生薬です。

 わが国では,江戸時代の『和語本草綱目』に「男女が怒って寒を受け,心腹痛あるいは胸先が痛むものに,良姜を酒で7回洗って焙って末にし,香附子を酢で7回洗って焙って末にし,もし寒が甚だしければ,良姜2gに対して香附子1gを,怒りが甚だしければ香附子1gに対して良姜2gを,寒怒が同程度に兼ねるものには各1.5gを米飲に生姜汁1さじ,塩ひとつまみを入れて服する。」と記されています。『和漢三才図会』では,高良姜の項に「今は略して良姜の名になった。」と記され,『手板発蒙』では,芳草として良薑の名で「本名高良姜クマタケランの類である。・・・唐からのものには2品種,太めと細目があり,大きいものは紅色で味は辛い。細いものは色淡く香気は薄い。」とあります。一色直太郎氏は,「色相が赤褐色で能く肥ったものが良品で,その両端の切面がゆでだこの切り口のように肥厚してあるものがよろしい。故に良品をたこでといって居ります。」と生薬をゆでだこにたとえて選品を述べています。使用頻度の少ない良姜ですが,本草書への記載は多く,以前はわが国でも使用頻度の高い生薬であったことが窺がえます。なお,一色氏は調製法として,「昔は薄く刻みそれを火にかけ杉箸の先に胡麻油をつけて炒ったものであります。」と述べ,乾姜と同様,一度加熱した方が温める効能が増すようです。

 現在,中国では正品のAlpinia officinarum由来の良姜のほか,非正品良姜として大高良姜A.galanga Willd. の根茎が流通しています。両者の違いは後者の方がより大型で,正品の表面色は紅褐色〜暗褐色であるのに対しこのものは紅褐色〜褐色とやや明るく,断面については前者が灰褐色〜紅褐色であるのに対し,後者は黄褐色とやや黄色味がかっている点です。先述の『手板発蒙』に記されていることから,古くからこれら2種が使用されていたようです。

 Alpinia属植物はわが国の暖地にもハナミョウガA.japonica,クマタケランA.formosana,ゲットウA.zerumbet,チクリンカA.bilamellata,アオノクマタケランA.intermediaの5種が分布しています。これらのうち,ハナミョウガの根茎が良姜として俗用されたことが『大和本草』に記されています。

(神農子 記)