基源:シナヒキガエルBufo bufo gargarizans CantorまたはヘリグロヒキガエルBufo melanostictus Schneider (Bufonidaeヒキガエル科)の毒腺の分泌物を集めて乾燥したもの。

 一般市民にはセンソ(蟾酥)というよりも「がまの油」と言った方がよく理解されるでしょうか。センソはヒキガエルの仲間の毒線分泌物を乾燥したもので,原動物のガマが『神農本草経』の下品に「蝦蟆」の名前で収載されています。当初はヒキガエル類の体全体を乾燥させたものを現在と同じような目的で使用していましたが,いつしか有効成分が皮膚のイボから出る白い分泌物であることが分かり,それだけが集められるようになったようです。

 ガマの油売りの口上では,鏡の箱に入れられたガマが己の姿に驚いてたらりたらりと出す油を集めて柳の枝でかき回しながら煮詰めることになっています。これまで,中国におけるセンソの製法はよく分かっていませんでしたが,最近になって明らかにされました。それによりますと,ヒキガエルが池に集まる11〜12月と2〜4月の年2回,網でガマを捕まえ,耳後腺及び皮膚腺に入っている白い分泌液をアルミニウム製のカスタネット状の器具ではさんで集め,適度な堅さになったものを円盤状あるいは種々の形に整えて自然乾燥するそうです。1枚の重量が100g程度の平均的な円盤状のセンソを生産するためには5,000〜7,000匹のヒキガエルを必要とするそうで,また自然乾燥には2年以上を要するといい,たいへんな手間ひまがかかっています。乾燥すると表面は黒色になりますが,断面があめ色をしたものが良質品とされています。

 その原動物のガマの資源が年々減少し,現在中国では国家重点保護野生資源動物に指定されていると聞くと驚きます。その大きな原因は農薬の使用によってガマの餌となる昆虫類が減少していることのようで,水源の汚染も問題視されています。そういえばわが国でも,田圃や池にはカエルがつきもので,以前は田植え時期にはうるさいほどの大合唱が聞かれたものですが,最近では昔に比べると大人しくなったような気がします。やはり,農薬使用の影響なのでしょうか。現場では,分泌液を採取したガマは再び池に戻しており,1年もすればまた採取できるそうです。そうした意味ではセンソは無限資源と言えますが,そのためには餌となる昆虫を確保する必要がありそうです。

 薬物資源が減少すれば,一般にはその種の栽培や養殖が試みられるのが常です。ガマも例外ではなく,養殖が検討されたそうです。しかし,種々試算した結果,餌の確保に経費がかかり過ぎて採算がとれないことが明らかになり,見送られたようです。

 さて,センソは強心性ステロイドのレシブフォゲニンresibufogenin,シノブファギンcinobufagin,ブファリンbufalinなどを含んでおり,これらの強い毒性から1日の服用量は2〜5 mgとごく微量で,局方収載生薬の中で唯一毒薬に指定されています。ゆえに,化学的品質の安定化が望まれるわけですが,実際には市場品にはこれらの成分に大きなばらつきがあります。分泌物採集者の熟練度,乾燥時の不手際などが影響しているようですが,偽和物の混入もあります。

 センソの高品質安定化には,採取した乳液を布で漉し,皮膚片などを除去したのちに凍結乾燥するのがもっともよいと報告されています。ただ,こうして作った製品の色は乳白色で,局方の性状の記載に合致しません。新鮮な分泌物を陰干しにすると強心性ステロイドは約半量にまで減少し,天日乾燥ではさらに減少するそうです。その点,凍結乾燥では減少が2割強でおさまり,資源の有効利用にも優れていると言えます。昔は凍結乾燥器などの機器がなかったわけですから,多くは自然乾燥されてきました。今後は他の生薬をも含めてこうした近代的機器を利用した生薬の新しい加工方法の検討も必要だと思われます。

(神農子 記)