基源:ウコンCurcuma longa Linne(ショウガ科Zingiberaceae)の根茎をそのまま又はコルク層を除いて,通例,湯通しして乾燥したもの。

 ウコン属植物Curcumaは,熱帯アジアに約40種が分布しており,古くから熱帯各地で栽培されてきたため栽培種が多く,現在でも十分にその調査がなされていないために,植物分類はやや混乱状態にあります。生薬「鬱金」の原植物であるウコンC.longaに関しても,キョウオウC.aromaticaから栽培化されたという意見がありますが,今のところ明確にされていません。また,鬱金は分類学的のみならず,生薬学的にも混乱しています。

 鬱金は,『新修本草』に初収載され,「味は辛・苦,寒,無毒。血積を主り,気を下し,肌を活かし,血を止め,悪血を破る。血淋,尿血,金瘡を治す」とあり,また植物学的記載としては,「姜黄に似ている。花は白く,質は紅い。秋末に茎心が出る。実は無い。根は黄赤で四畔の子根を取る」と記載されています。この記載からは,鬱金の原植物はC.longaで間違いはないと思われますが,薬用部位については「子根」と記載されており,現在『日本薬局方』で規定される部位「根茎」とは異なります。

 中国では『中華人民共和国葯典1995年版』によると,原植物としてC.longaの他に3種のCurcuma属植物があげられ,薬用部位として「塊根」が規定されており,これは『新修本草』の薬用部位「子根」に一致するものと思われます。李時珍もまた「・・・根を用いるものだ。・・・根の大きさは指頭ほどで,長いものは一寸ばかりになる。形は丸く,横の紋があり,蝉の腹のようだ」と,やはり根を用いたことがうかがわれます。現在の中医学では,C.longaC.aromaticaの塊根を「鬱金」と称し,根茎を「姜黄」と称しているようです。性味や効能についても両者はやや異なるとされ,同一植物を部位により使い分けています。なお,ここでいう「塊根」は茎直下の塊状の根茎から指のように突出する部分で,植物学的には根ではなく,「側根茎」とするのが正しいようです。

 わが国江戸時代の『本草辧疑』には「鬱金」の項目がなく,かわりに「薑黄」の項があって,その冒頭に「薬舗に姜黄と言うものはなく,頭鬱金と軸鬱金の二品があり,同一物で大小で異なるだけだ」と述べ,「姜黄,鬱金,莪朮の三物については本草書の中でも混乱して一定せず,誤解が多い」としています.そして『本草綱目』の記事をうけて,「今日,頭と言っているものを"鬱金"とし,小さい軸と言っているものを"姜黄"とするのだ」と,現在中国と反対の状況を記しています.しかし,李時珍は「鬱金」と「姜黄」を別項に紹介して,生薬としては性味や色,においの相違を理由に「両薬は同一ではない」と述べており,やはり混乱も見受けられ,結局のところ,両生薬の基源に関しては現時点でも確たることは言えず,この点については今後の研究が待たれます.

 産地に関して,『図経本草』に「蜀地(今の四川省の一部)及び西戎(今の新疆と吐魯番の県境)に生じる」と記載されています。一方,C.longaの根茎はアーユルヴェーダを代表する薬物であり,各種炎症,肝臓障害,皮膚疾患,泌尿器疾患,月経異常など多用途に用いられ,中国へも古い時代に生姜などとともにもたらされ,栽培されていたものと察せられます。

 なお,現在中国ではC.longaの植物名が「姜黄」で,生薬名が「鬱金」であり,この点についても間違えやすいので注意が必要です。また,「宇金」「郁金」「玉金」などは「鬱金」と同一発音で,漢字を簡略化した結果生じた別名で,とくに「玉金」を「ぎょくきん」と発音するとまるで別生薬のように思われますので注意が必要です。ただし,市場で川玉金と称されるものは紡錘形で,色は灰色で,明らかに別物であるなど,現在でもこの仲間は混乱が続いています.

(神農子 記)