基源:トチバニンジン Panax japonicus C.A.Meyer(ウコギ科 Araliaceae)の根茎。

 竹節人参は『日本薬局方』に人参の代用品として別項目に収載されています。原植物名はトチバニンジン(別名チクセツニンジン) P.japonicus C.A.Meyer〔= Panax pseudo-ginseng Wall. var. japonicus (C.A.Meyer) Hoo & Tseng〕で、人参の原植物オタネニンジン(別名チョウセンニンジン)Panax ginseng C.A.Meyer とは同属の別種です。とはいえ地上部は互いにそっくりで、区別することはなかなか困難です。一方、地下部の形態はかなり異なっています。すなわち、オタネニンジンでは根が大きく太く育ちますが、トチバニンジンでは根茎が太く育ち、和名にも示されているように竹の節状になり、根は一般に細くて貧弱です。したがって、人参と竹節人参では薬用部位も異なり、前者では根、後者では根茎です。日局のラテン名も GINSENG RADIX と PANAXI JAPONICI RHIZOMA になっています。当然見た目もまったく異なる生薬です。

 竹節人参の原植物は中国大陸にも分布しており、生薬としてわが国に輸入されています。一般に日本産よりも小型ですが、中には区別しがたいものもあります。また、日本産のものの方がやや黄色味が強く、中国産はやや灰色がかっており、慣れれば区別できます。なお、中国には同一変種で根茎が細くて所々で珠状に膨らむものがあります。それを「珠子参」と呼んで竹節人参と同様に利用しています。

 中国では竹節人参は歴代の本草書には記載がなく、民間的に利用されてきた生薬です。一般には止咳、化痰、散お、活血薬などとして利用されますが、近年は中国医学的解釈が進み、性味は「甘苦、温」で、「肝と脾」経に入る薬物とされています。人参の『神農本草経』における性味「甘、微寒」とは多少異なりますが、人参の評価も最近では「甘微苦、温」とされていますので、性味については竹節人参もほぼ同様と言えます。一方、帰経については人参では「脾、肺」とされる点が異なります。薬効的には人参の主たる効能は元気を補い、津液を生じ、精神を安らかにすることです。両者を比較すると、竹節人参には血分にも作用する点が異なると言えますが、李時珍は薬用人参に吐血、下血、血淋などに対する止血作用を認めていますので、実際には両者にはそれほど大きな差異は無いものと思われます。昨今のわが国では竹節人参に人参よりも強い健胃、解熱作用があるとしています。よく肥大し充実したものが良品とされます。

 それよりも、薬用人参は古来貴重生薬であり、多くの代用品があったようで、それらの薬効との混乱が各種の本草書や医案に記録されている可能性は否定できません。また、『本草正義』には同じ人参と言えども、遼東参、高麗参など産地によって薬効が微妙に異なることが詳細に記されています。加えて、同属植物に「田七」,「広東人参」,「假人参」などの別生薬があって、それぞれ薬効が少しずつ異なると考えられています。また竹節人参についても、日本産と中国産がまったく同様の薬効を有しているか否かは明らかではありません。植物学的相違が明確になった今日、野生品と栽培品、加工調製法の違いなどをも含めて、今一度人参類生薬の中国医学的薬効解析が望まれるところです。

(神農子 記)