基源:マタタビ Actinidia polygama Maxim.(Actinidiaceae マタタビ科)の果実が虫の刺傷により瘤状になった虫えい。

 山野でマタタビの実物を見た人は少ないかも知れませんが、「猫にマタタビ」という効果が著しいことを喩える諺があって、名前だけは良く知られています。マタタビ科の細い蔓性木本植物で、5〜6月頃にウメに似た白い花を咲かせ、ちょうどその時期になると葉の上半分が白く変色するので遠くからでもその存在を知ることができます。

 「猫に−−」の諺からネコの薬用植物としても知られ、ネコに枝葉を与えると面白いほどにじゃれついてきます。ネコ、トラ、ライオンなどを始めとするネコ科の動物に限らずイヌにも有効で、その成分はマタタビラクトンやアクチニディンと呼ばれる物質であることがわかっています。

 マタタビは民間的に神経痛やリウマチに応用され、薬用としては一般には「またたび酒」としての利用がよく知られています。市販品の瓶の中に入っている原材料を見ますと、薬用部位が果実であることがわかります。「またたび酒」には砲弾型をした正常な果実が使用されますが、乾燥して市販されているのはタマカの仲間の刺傷によりゴツゴツとした虫こぶとなった果実です。わが国ではこれを「木天蓼実」、「木天実」、あるいは単に「木天蓼」と言って薬用に供していますが、実は中国では蔓性の茎(昨今は枝と葉)を薬用にしてきました。

 木天蓼が本草書に初めて記載されたのは唐代の『新修本草』で、「味辛温小毒有り。積聚(臓腑中に気が停滞集結して散らない病態)、風労(感冒による衰弱)、虚冷(虚して冷えること)を主り、苗藤を切って酒に浸すか或いは醸して酒にして服すると大いに効果がある」とあり、薬用酒を造る部位は茎であるとあります。ただ果実に関しては、「大棗のようで定まった形がなく、茄子のような種子をもち、味が辛くて姜や蓼に当てる」と記載があり、生姜やタデの代用食にされていたようで、味が辛いことから薬用としても「天蓼子は身体を温め、風湿を除くのに使う」と同じ唐代の『薬性論』に茎と良く似た薬効が記載されています。わが国でもっぱら果実を薬用にするのはこうした薬効の類似性と見た目の良さに依っているのかも知れませんが、虫えい(虫瘤)が好まれるようになった理由は定かではありません。あるいは虫えいの方が単に水分が少なくて保存性に勝っていたからなのかも知れません。

 このように同じ薬名で中国とわが国とで薬用部位が異なる生薬がいくつか有ります。茵陳蒿、淫羊霍、細辛、蒲公英などですが、そのいきさつについてはほとんどわかっていないようです。

 今年は「またたび酒」の原点に戻り、果実ではなく枝葉で製してみてはいかがでしょうか。ただし、申し訳ないのですが、現時点では需要がないので市販品がありません。マタタビはこれから果実期を迎えます。決して珍しい植物ではありませんので、ハイキングに出かけたついでに探して採集するのも一興でしょう。

(神農子 記)