基源:ハシリドコロ Scopolia japonica Maximowicz またはその他同属植物(ナス科 Solanaceae)の根茎及び根

 一般にアルカロイドは生理活性が強く,アヘン末のモルヒネ,黄連・黄柏のベルベリン,麻黄のエフェドリンのように局方中でその含量が規定されているものが多い。今回のロートコンも『日局 12』で「本品を乾燥したものは定量するとき,総アルカロイドとして 0.29%以上を含む」と規定される一方,毒性が強いので劇薬に指定されています.

 1826年,江戸時代末期,長崎から江戸へ向かっていたシーボルトは,尾張国一宮にさしかかった時,ハシリドコロを見てヨーロッパの「ベラドンナ」と同一植物であると勘違いし,人々に間違って教えてしまいます。ところが,当たらずも遠からずで,ハシリドコロにも「ベラドンナ」と同じような効果があり,思いがけなく新薬物資源の発見につながりました.その後,1887年に長井,E.Schmidt がハシリドコロからアトロピン,スコポラミンを発見し,ベラドンナ根に代用できる生薬として『日局2』から収載されました.

 春先の芽生えは柔らかくおいしそうに見えるのか,誤食による中毒のニュースは後を断ちません.平賀源内は『物類品隲』(1763年)に「莨  --- 誤って之を食えば狂走して止まらず,故にハシリドコロという」とこの中毒症状がそのまま和名になったことを記しています.実は「莨 」はヒヨスのことで,源内も中国本草における「莨 」とハシリドコロの植物形態の違いを述べてはいますが,この時以降,ハシリドコロに「莨 」を当てるという間違いが生じ,今に至っています。

 食中毒物質の本態はトロパンアルカロイドで,季節による含量に大きな変動があります.アルカロイドの総含量は発芽期の3月〜開花期の4月にかけて最高となり,その後次第に減少し,秋から冬11〜12月頃最低となります.採集はアルカロイド含量の安定した5〜6月ごろ,茎葉が枯死する前に地下部を掘り採り,ひげ根を去り水洗し,筵に広げて陽乾して調製します.主成分のヒヨスチアミン,アトロピン,スコポラミンなどのアルカロイドは,植物体内では -ヒヨスチアミンとして多く存在しますが,生薬やエキス調製時には多くは毒性の弱まったアトロピン(d -ヒヨスチアミン)に変わっています。

 ハシリドコロは,日本固有の有毒植物の一種で,本州,四国,九州の樹陰に自生し,結実後6月頃には地上部は枯死してしまいます.北海道には自生しませんが,北海道で栽培しますと秋まで葉は枯れず,地下部も著しく肥大するところから,寒地適応型の植物である事が予測され北海道での栽培の可能性を示しました.しかし実際には栽培試験の結果,アルカロイド含量が局方規定値よりもはるかに低いものが収穫され,生薬としての品質には問題があるようです.

 現在,日本産はほとんど産出されず,韓国や東ヨーロッパ,さらに中国から輸入し,専らロートエキスとして,胃痛,胃痙攣,肛門疾患の鎮痛・鎮痙に応用されています。

(神農子 記)