基源:エビスグサ Cassia obtusifolia Linne または Cassia tora Linne(マメ科 Leguminosae)の種子

 エビスグサは「夷草」と書き,その字が示すようにもともと日本にあった植物ではありません。北米から中・南米が原産で,そこから熱帯アジアに伝わり,わが国には享保年間(1716〜1736年)に中国南部から伝わったとされます.日本では一年草で,成長すると草丈約1.5メ−トルほどになり,現在わが国で栽培されているのはこのものです.C.tora は,熱帯アジア原産で C.obtusifolia に似ていますが,草丈はそれほど高くならず,また,わが国では結実しにくいといわれ,輸入品にこれを基源とするものが見られます.2種を比較しますと C.obtusifolia の方が大型で,種子 100粒の平均重量は C.tora の約2倍あるとする報告がありますが,大きさは,おそらく品種が違うのでしょうが,産地によっても様々です.

 生薬「決明子」は,その「明を開く」薬効から名づけられました.『神農本草経』上品収載品で,「主青盲目淫膚赤白膜眼赤痛涙出」と記載されています.現在は漢方生薬としてよりももっぱら健康飲料「ハブ茶」の原料として年間約1000トンが中国・北朝鮮・タイ・インドなどから輸入され,軽く炒ったものが茶剤として愛飲されています.市場では中国湖南省産の小粒のものが特に好まれています.

 Cassia属植物は世界に約450種あります.中でも C.occidentalis と C.torosa は決明子の原植物として紛らわしいものですが,決明子が4稜性円柱形〜円柱形であるのに対し,これらの種子は,扁平な円形から楕円形の円盤状をしていますので簡単に見分けがつきます.

 決明子は民間では整腸薬として,また弱い緩下薬として利用されています.その瀉下活性成分は大黄にも含まれるアントラキノン誘導体と考えられ,C.obtusifolia の種子からは,chrysophanol,physcion,emodin,aloe-emodin,obtusin,obtusifolin,aurantio-obtusin,chryso-obtusin とそれらの配糖体が確認されていますが,C.tora の種子には obtusifolin と chryso-obtusin 及びそれらの配糖体は見つかっていません.これら一連の成分の瀉下作用は,大黄やセンナ葉に含まれる sennoside ほど強くはなく,またほとんど瀉下作用の無いものもあり,弱い緩下薬とされる所以です.また,炒ったり焙じたりすることにより,瀉下作用はさらに弱くなるものと推測されます.

 いずれにせよ,決明子に弱いながらも瀉下作用があるからには,胃腸薬とは言え冷え性の人や虚弱な人には適していません.保険飲料として常用するには,決明子のみを利用するのではなく, 苡仁やカキの葉など他の素材をも加えた方がより適切であると考えられます.

(神農子 記)