基源:サフラン Crocus sativus Linn. (アヤメ科 Iridaceae)の雌蕊(花柱と柱頭)

サフランの原産地は、南ヨーロッパ、地中海沿岸からトルコ、インド
に至る地域で、古くから高貴な香味料として利用されてきました。

紀元前16世紀、古代エジプトで書かれた世界最古の薬物書パピルス・
エーベルスにその記録があり、またやはり同時期に描かれたとされるク
レタ島の壁画にも残されているなど、サフランは歴史の古い生薬です。

日本へは江戸時代末期(1864年)に球根(鱗茎)がもたらされ、神奈川
県で栽培が始められました。

学名から分かるようにサフランはクロッカスの仲間で、直径3〜4cmの
鱗茎で増殖し、10月から11月にかけて淡紫色の美しい花を咲かせます。

薬用とされるのは花の中心からまるでヘビの舌のように細長く垂れて伸び
るめしべ(花柱と柱頭)の濃紅色の部分で、先は3分裂し、長さは3cm前
後ですが、基部に近い部分は淡紅色で品質が劣るとされます。

薬用としては、鎮静、鎮痙、通経、止血などの目的で用いられ、とくに婦
人病の治療薬として更年期障害、月経困難、無月経、月経過多などに多く
使用されていますが、通経作用が強いので、妊婦に使用してはいけません。

またその高貴な芳香はスパイスとして珍重され、さらにそのあざやかな紅
色は食品や化粧品の着色料として利用されてきました。フランス料理のブ
イヤベースやスペイン料理のパエリヤなどにはなくてはならない香辛料と
なっています。

芳香は、少量含有される苦味配糖体ピクロクロシン picrocrocin の加水
分解によって生ずるサフラナール safranal や、精油のピネン pinen,シネ
オール cineol などによっています。

サフランが古くなると苦味が減り、香りが強くなってくるのはピクロクロ
シンがサフラナールに変化するからです。また色素としては、黄色のカロ
チノイドであるクロシン crocin を含んでいます。クロシンは黄色色素で
すが、濃度が高いとあざやかな紅色を呈するのです。但し退色が速いので、
サフランは遮光した密閉容器に保存する必要があります。そのままにして
おきますと美しい紅色は2年ほどでほぼ半減してしまいます。

サフランは1鱗茎に1〜3個の花をつけますが、めしべ1本の重量はごく
軽く、500gのサフランを採集するのに約60,000個の花が必要とされます。
栽培はさほど難しくありませんが、めしべを採集するのにたいへんな手間
がかかるので自然と値段が高くなっています。また乾燥方法が悪いとあざ
やかな色が出ず、低級品となります。そこで価格で競争するためには採集
の手間を出来るかぎり省くしかありません。

最近では球根を畑に植えず、室内で平たい篭に密集して並べて栽培してい
るのもそのためです。世界各地で栽培され、近年は多く良品質のスペイン
産を輸入しています。インド産はやや乾燥が悪く、色がくすんでいます。

なおイヌサフランとよばれる植物があり、水を与えずに机の上でも咲く植
物としてコルチカムの名前で市販されていますが、このものはユリ科植物
でサフランとはかなり異なる植物です。ただしイヌサフランも薬用植物で、
球根にアルカロイドのコルヒチンを含み痛風の痛みに使用されますが、副
作用が強く、素人が使用すると危険です。身近にある植物ですから、幼児
が誤って口にしないよう注意する必要があります。

植物名で「イヌ --- 」というのは、一般には「にせもの」の意味で使用さ
れる接頭語です。ご用心のほどを。
(神農子 記)