基源:Platycodon grandiflorum A. DC. キキョウ(キキョウ科 Campanulaceae)の
   根の細根を去って乾燥したもの。

生薬の中には伝統医学や民間療法でしか利用されないものと、西洋医学
でも利用されているものがあります。桔梗は後者の代表的なものの一つ
で、鎮咳去痰薬としてよく知られています。

生薬としての桔梗には外面が褐色のものと白いものがあります。前者は
根をそのまま乾燥したもの(「生干桔梗」で、また後者はコルク皮を除去
してさらに晒して乾燥したもの(「晒桔梗」)です。

いずれにせよ内部が白色のものが良品であるとされています。さらに、
大型で分岐がなく内部が充実したものがよく、味は少々えぐみの強いも
のが良品とされています。

ところで、中国医学における治療理論の中では陰陽五行説がその中心に
なっていますが、この理論の中に薬物の色に関するものがあります。

すなわち王好古の著した『湯液本草』には「五宜」として、それぞれの
臓器(中国医学で云う所謂五臓)と色の関係が説明されています。その
中に「肺の色は白。宜しく苦を食すべし」とあります。

鎮咳去痰薬はすなわち肺の経絡に入る薬物ですから、この理論からすれ
ば白い方が良いということになり、桔梗がわざわざ白く晒して用いられ
ているのもこの理論に則っているのではないかと思われます。
また、桔梗は『神農本草経』には「桔梗味辛微温----」と記されていま
すが、そのすぐあとの本草書である『名医別録』では「味苦」の文字が
追加されています。味についても五宜の考えでは「苦み」の強いものが
良いとされる訳ですから、桔梗は甘みがあってはならず、却ってえぐみ
の強いものが良いという訳です。

なお、参考のために他の臓器についても記しておきますと、肝は青、心
は赤、脾は黄、腎は黒となっています。もちろんこの考え方は万能では
なく多くの例外を有していますが、生薬の品質を考えるときの一助にな
ることもまた事実です。

さて、植物のキキョウはわが国でも古くから知られ、万葉集に秋の七草
のひとつとして「あさがほ」の名で詠まれていることは衆知のことです
が、戦国の武将たちにも好まれていたことをご存じでしょうか。

そう云えば明智光秀や加藤清正の家紋も桔梗です。ふたたび『神農本草
経』に目を向けてみますと、桔梗の薬効は「刀で刺すが如き胸脇痛、腹
部膨満感、腹鳴幽幽、驚愕恐怖による悸気(心中が跳動すること)を主
治する」と記載されています。

武勇には恐怖心に勝つことが何よりですから、キキョウが好まれたのは
案外このあたりの薬効と関係があったのではないかと思われるのですが、
如何でしょうか。
(神農子 記)