基源:
Scutellaria baicalensis G. コガネバナ(シソ科 Labiatae)の根の周皮を剥いで乾燥したもの。

 コガネバナの原産地は学名のバイカレンシスが示すように、現ロシアのバイカル地方
を始めとするアジアの極東です。タツナミソウの仲間の多年性草本で、初夏にきれい
な青い花を咲かせ、日本には野生しませんが最近では各地で生薬生産を目的に栽培さ
れるようになっています。

 ところで、生薬の等級は一般に大型で形の整ったものが上級品とされています。すな
わち、原植物が草本であれば、栄養状態のよいところにはえた大型の株から生産され
た生薬がよく、また木本の樹皮であれば、多年に渡って厚く育ったものが良品とされ
ます。

しかし、黄ゴンはそうした常識の例外です。

 生薬「黄ゴン」は根を薬用としますが、根の大きく育ち過ぎた部分に由来するものは下
級品とされます。コガネバナの根は本来直根が細長い円錐形をしていて、そのような
根やまた根の先端部から生産した商品を子ゴン、枝ゴン、尖ゴンなどと称して良品扱いします。

しかし、植物の株が大きくなると、根の中心部が枯れて腐り、黒褐色になって、いわ
ゆるアンコと呼ばれる部分ができてきます。さらに生育しますとアンコの部分がより
広がり、ついに根の周辺部だけが残って中心部がなくなり、まるでジョウゴやロート
のように上部が開いてしまいます。そのような部分から生産した黄ゴンは板片のような
ので片ゴンと称されます。

 単に商取引上のことだけを考えれば、大型の片ゴンも見た目に立派で高く取引されそう
なものですが、古来習慣的に子芩が尊ばれてきたのはやはり薬効的に差があったもの
と考えられます。

 一方、組織学的には片ゴンでは外面と内面の両方にコルク層(周皮)が発達し、当然の
ことながらそこには土壌が付着しやすく、ために酸不溶性灰分が多くなり、局方不適
となります。生薬中の灰分には、カルシウムやカリウムのように最初から植物体に含
まれているものもありますが、それらは結晶性のものであってもすべて酸に溶けます。
しかし、土壌に最も多い成分であるシリカ(硅酸)は酸には溶けず、生薬中の酸不溶
性灰分とはすなわち土壌由来の汚染物質ということになり、この数値が低いほど衛生
的に生産加工された生薬であると言えます。

局方で周皮を剥いだものを規定しているのは、周皮中の成分含量が極度に低いことも
ありますが、土壌による汚染を極力少なくするためでもあります。

 医薬品たる生薬が土壌で汚染されていることは好ましくありません。しかし土中で育
つものを原料としているかぎりはまったくゼロという訳にもいきません。生薬の生産
過程において、土壌による汚染は髪の毛の混入と共に最も神経を使う事柄の一つです。