=身近な有用植物、クズ=

 日本薬局方で葛根の原植物として規定されているマメ科のクズ(Pueraria
lobata
Ohwi)は日本、中国、朝鮮半島、台湾などに分布し、日本では山野にふ
つうに見られるつる性の植物で、夏から初秋にかけて紫紅色のきれいな花を咲か
せます。繁殖力が旺盛で、つるは長さ10m以上に、根は肥大し直径15cm以
上に達するものもあります。そのため、薬用部位である根を掘り起こすことは容
易でありません。

 現在日本市場には、角葛根(一辺が5〜10mmの立方体)と板葛根(幅3〜4
cm,長さ10〜15cm,厚さ3〜8mmの板状)の二種類の葛根がみられま
す。どちらも一見して繊維に富んでいることが明らかで、かつ、手を触れると白
い粉がつくという葛根の特徴を示し、品質的には、灰白色ででんぷんに富んだも
のが良品とされます。なお、中国南部の地方には見るからに粉に富んだ粉葛根と
称する色白の商品がありますが、このものは日本産葛根と原植物が異なり、また
イソフラボン類の含量が極めて低く日本薬局方には適合しません。

 ところで、葛根は神農本草経の中品に収載されていますが、根の他に葛の葉や花
も名医別録に収載され、それぞれ独自の効能が記されています。

 このように葛は古くから各部位がそれぞれ別の効能で薬用にされる非常に有用な
植物であったといえます。

また名医別録の「生根汁大寒療消渇傷寒壮熱」や開宝本草の「葛粉味甘寒・・小
児熱痞以葛根浸搗汁飲之良」という知識が受け継がれ、現代でも葛湯を風邪の際
の発汗に応用します。

このような中国の知識が日本へ伝わると、わが国では山野に自生していた植物
“クズ”を中国本草書の“葛”に充てて使用するようになり、クズの花や葉を民間
的に酒毒、出血などの治療に利用するようになったものと考えられます。

 クズはこうして身近な薬草として庶民の間に知られていく一方で、薬用以外でも、
料理やお菓子をつくる際に重用されるクズでんぷんの原材料として、また、つる
の繊維を葛布として利用することで、さらにまた秋の七草の一つとして、庶民の
生活の中に深く係わってきました。

 “クズ”は、きわめて用途範囲が広い身近な有用植物であるといえます。

(神農子 記)