=生薬の品質=

 麻黄は、葛根湯、小青竜湯、麻黄湯、防風通聖散、麻杏甘石湯などの多くの漢方
処方に配合され、年間約700トンが輸入されています。
また、喘息治療薬として有名なアルカロイド、エフェドリンを含有し、かつては
塩酸エフェドリン(注1)の製造原料にされていました。

現在市場に出回っている麻黄の多くは、中国の遼寧、山西、陝西、内蒙古などに
自生するマオウ(Ephedra)属植物の地上茎(草質茎)を乾燥したもので、原植
物としては、E. sinica Stapf、E. distachya L.(注2)E. equisetina Bunge、
E. intermedia L. などが知られています。

 マオウ属植物は、一見するとトクサによく似ています(注3) が、植物分類学上は裸
子植物に属し、花博に展示され有名になった砂漠の植物、ウェルウィチアなどと
共に裸子植物の中でも最も特殊化した植物群の一つで、マオウ属1属からなるマ
オウ科(Ephedraceae)として分類されています。またマオウ属植物は世界中の
乾燥地に広く分布し、アジア、ヨーロッパ、地中海地方、北米の西海岸および南
米のアンデス地方などで約35種が確認されています。

 ところで、植物の形態は生育地の環境の違いによって著しく変異します。これは
生薬の原植物であっても同じで、生育環境の違いによって原植物の形態が変異
し、最終的にこれらに由来する生薬に品質のバラツキとなって影響します。

 麻黄の産地として4ヶ所の名前を挙げましたが、一般に一つの生薬には主要な産
地が数ヶ所あります。産地が異なると、原植物が異なったり、あるいは、同一原
植物であっても生育環境の違いから形態に産地間差を生じます。また同一産地内
であっても、場所によって日照量や土壌中の水分量などに差があり、それが形態
の差となって現れるようです。

生薬の多くは、生育環境の影響を大きく受けるこのような植物という生き物に由
来しているため、当然、その品質は生育環境に大きく依存し、同じ名称の生薬で
あっても、産地、ロット等の違いによって品質が異なります。したがって、生薬
を使用する際は各生薬の品質を見極め、より良い生薬を選んで用いることが効き
目を左右する大きな要因になります。

麻黄は、六陳(古い方が品質が良い6種の生薬)の一つとされ、表面は粗く、淡
緑色を呈し、中が充実していて、味は苦く渋いものが品質の良いものであるとさ
れます。
(神農子 記)


(注1) 塩酸エフェドリンは現在、全合成の方法が確立され、製造原価の関係から
     専ら合成されてる。
(注2) Ephedra sinicaE. distachyaは、本来同一種で、生育環境の違いにより外
     見上異なった形態を呈するのであるという説があり、今後詳細な検討が必要
     である。
(注3)  かつては増量のためにトクサが用いられたとされ、日本薬局方の確認試験に
     [本品はトクサ科(Equisetaceae)またはイネ科植物の茎またはその他の異物を
     含まない]と規定されている。