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栽培こよみ 第46回

 
 ボタン ボタン科
 
 吉川英治の宮本武蔵の中で、牡丹焚火のはなしが登場する。
「俳人たちはその質のいいのを探して雅印を彫ったり、茶席の風呂釜の下で焚
いて'牡丹で焚くと茶がうまい'と云った。
 そういう細かいことは俗人にはわからないが、俗人でもわかる事は、牡丹の枯
れ木から燃える炎の美しい事だった。五十年も経った古木を焚火にすると、燻々
として、香水のようなにおいが揚るばかりでなく、炎は強くて、不動明王の背
光にあるような、紅蓮と、紫金と、白毫
市販のボタンの鉢植え
市販のボタンの鉢植え
のような光を鮮麗に描き出す・・・」と
ある。茶のうまいのは多分わからないと
思うが、その炎の方は一度見てみたいと
思った。
 
 ボタンは今頃になると、園芸店や量販
店でビニールポットに入った苗がたくさ
ん売られている。花の色も赤や白、桃色
や紫色など様々である。ほとんどにラベ
ルが付いているから好みの色の花を選ぶとよい。
 
鉢から出したボタン苗
鉢から出したボタン苗
 庭に植えるときは半日以上は日光の当たる水は
けのよいところへ植える。植穴を株よりも一回り
大きく堀り、少量の堆肥と肥料を入れてよく混ぜ
ておく。肥料は油粕と骨粉がよい。そして根が直
接当たらないように少量の土を入れてからその
上に根を広げて植えこむ。
 
 鉢に植えるときは、苗の大きさにもよるが6,
7号から尺鉢程の少し大きな鉢へ植える。培養土
は畑土に堆肥などを加えた土でよい。なければ市
販の園芸培養土を用いる。水はけよく植えるため
に四分の一ほどは大粒の鉢底石を入れておく。
 
その上に培養土を少し入れてから根を広げて株
大きな鉢へ植えたところ
大きな鉢へ植えたところ
を配置よくおき、さらに培養土を鉢の縁まで加え
て、鉢底をトントンと軽く打ち付けると土が落ち
着いてちょうど良い位置になる。接いだ部分が土
の表面から1センチ程度下になるようにするのが
良い。十分に水を与えてよく日の当たるところに
置く。
 
 春になってつぼみが膨らんでくると、咲いた花
が重くて倒れないように支柱をしておく。また、
ボタン園で見るように傘を着せるような、花が雨
が当たらないようにすると、長く楽しむことがで
きる。
 
 春の新芽の出る前と花後には肥料を与える。
 また、観賞用花木でもあるから樹形を整えるためにも落葉後は枝の込みすぎ
たところなどを剪定する。
 
 ところが今売られている苗木はシャクヤクにボタンを接ぎ木したものがほと
んどである。ボタンの根は太くて長いから鉢植えにするには都合が悪い。シャ
クヤクに接ぎ木したものは長い根が出ないことや、台木から芽が出ないことな
どで鉢植えに都合がよいからたくさん作られるようになったのである。
 
 ではボタンとシャクヤクは何が違うのか。ボタンは木本性で冬になっても木
が残る。そして年々、木が大きくなる。シャクヤクは草本性で、冬になると地
上部が枯れてしまう。花を観賞するのであればどちらでもよいのだが、シャク
ヤクに接ぎ木した株は寿命が短い。それでも20年は持つらしい。もし、どうし
ても全部ボタンにしたいのであればボタンから根を出させることである。
 接ぎ木した苗木を植えるときに接いだ部分に近い1,2芽を残して切り捨てる。
春になってこの小さな芽から新梢が伸びてくる。5月頃、先端の芽を切り取り、
側芽も地際まで摘み取る。土の中の芽は太い芽を伸ばしてその下にはボタンの
根が出ていると思う。根が十分伸びていたらシャクヤクの部分を切り離すとボ
タンだけの株になって大きな花をつけるようになる。
 
 ボタンを栽培して、花を楽しみ、牡丹の枝を燃やして湯を沸かし、茶を飲ん
だり、燃やした時に出る炎を楽しむがよい。

(2011年11月1日)