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栽培こよみ 第34回

 
 トリカブト キンポウゲ科
 
 夏も終わるころのある日、あまりにも天気が良いので山歩きを楽しんでいた時
のこと。あたり一面、紫色の絨毯を敷き詰めたよ
トリカブトの花
  トリカブトの花
うな光景に出合った。ちょうどトリカブトの花が
満開だったのだ。このようにトリカブトはしばし
ば群落をつくって咲いていることがある。独特の
花形をしていて、舞楽の時に用いる冠に似ている
ことからついた名だそうだ。
 トリカブトは毒草であるが、それほど山奥へ行
かなくとも低山のハイキングコースなどでも見
かけることがある。また、花の時期には園芸店で鉢植えが売られていることも
あるから、トリカブトは比較的簡単に手に入る。
 
 花はとてもきれいであるが、この花を見ると昔あったトリカブト殺人事件を思
白花トリカブト
    白花トリカブト
い出す。トリカブトを食べさせたのであればすぐ
に症状が出るから犯人がすぐにわかるが、トリカ
ブトの毒とフグ毒とを合わせて遅延効果を狙っ
た時間差殺人事件だそうだ。そのことが600年
も前の中国の古書「輟耕録」に書いてあるという
から、そのことを犯人は知っていたのだろうかと
いう報道に興味を持ったから印象に残っている。
 
 
トリカブトも、今月に入ると地上部は枯れて株分けや植え替えの時期になる。
栽培している鉢から株を取り出してみると古い
トリカブトの塊根
  トリカブトの塊根
根の両側に新しい塊根が二つついていた。古い
根とは色が違うからすぐに見分けがつく。
 この株を新しい培養土で植え替えてみよう。
 植木鉢は前と同じ4寸の駄温鉢で栽培するこ
とにした。
 鉢底にネットを敷き、水はけを良くするため
に鉢の4分の一ほどに大粒の培養土を入れる。
その上に小粒の培養土を少し入れてから、新芽
の先端が培養土の表面から1?ほど下に、また、鉢の中心にくるように位置を
植え替えた終えた株
    植え替えた終えた株
定めてからさらに小粒の培養土を鉢の縁まで入
れて行く。軽くトントンと鉢底を下に打ち付け
ると培養土が適当な位置に落ち着く。如雨露で
たっぷり水を与えて、名前のラベルを付けると
植え替えの出来上がり。
 
 これからの季節は鉢が凍らないように管理を
する。春になるとよく日に当てるが夏の直射
日光は避ける。新芽が出てからは緩効性肥料を少量、鉢の縁に置くか、液肥を
時々与えると花つきが良くなる。
 
 トリカブトは毒草としてよく知られているから食べる人がないと思うが、春
に出る新芽が山菜と間違われることがあるらしい。山菜を食べる地方では、毎
年数件のトリカブトによる事故がありますよ、と保険所の人から聞いたことが
ある。
 食用野生植物便覧には、味は苛辣で灼熱感あり、嚥下すれば食道及び胃にも
感ず、そして嘔気、流涎、下痢、呼吸困難、口唇舌に麻痺症状が顕れ、手足殊
に指に来る。重症の場合は呼吸錯乱、口より泡沫を流し瞳孔散大、聴視覚消失、
皮膚厥冷、痙攣、呼吸麻痺を来すとあった。

(2010年12月1日)