前回、狂言の『附子(ぶす)』について少し触れました。今回はその話について詳細をのべたいと思います。

このお話しの登場人物は主人、従者である太郎冠者(たろうかじゃ)と次郎冠者(じろうかじゃ)の三名です。お話しは、主人がある日、外出する際に、普段一人をお供にするにもかかわらず、二人とも置いていったところから始まります。主人は、出かける際に二人に、お櫃には猛毒の「附子(ぶす)」が入っていると伝えます。さらに「附子(ぶす)は、その方向から風が吹いただけでも死んでしまうほどの猛毒だ」ともつけ加えます。本当はお櫃の中には砂糖(水飴)が入っていますが、二人に嘘をついて食べさせないようにしたのです。

ところが、太郎冠者と次郎冠者は、留守番をしている間に、お櫃をあけてしまい、中身が砂糖(水飴)であることがわかり、すべて食べてしまいます。そこで、主人に言い訳をするために、主人の大事にしていた掛け軸を破ったり、茶碗を割ったりします。二人は、主人が帰宅すると、「お詫びをするために猛毒の附子(ぶす)を食べて死のうとしたが死ねなかった」と告げる話です。

狂言では、二人がお櫃を開ける際には、附子(ぶす)の毒気を含んだ風にあたらないように、扇子であおぎながら、「あおげ、あおげ、あおぐぞ、あおぐぞ」とあらわされています。ここで疑問点が生じます。猛毒な附子でも、揮発性でないため、その風にあたったぐらいでは死に至らない点です。また実際に砂糖をなめているしぐさを見ると当時の砂糖は現代でいう水飴であったことがわかります。

高山に行くと、ときおりトリカブトの花が見られる季節となりました。花の蜜にさえ毒性物質がありますから、塊根は猛毒なわけです。ほかの生薬に比べて毒性が高いですが、風が吹いたのにあたっても死んでしまうほど高くはありません。