春になると、足元の小さな植物がきれいな花を咲かせているのを見かけるようになります。そして初夏には、燦々とふりそそぐ太陽の光と多くの雨のおかげで、日々、樹木の成長が早まっていきます。これらの木々の下の日陰になったところに、マムシグサと呼ばれる、マムシの肌の模様に似た植物を目にすることがあります。

マムシグサは、サトイモ科テンナンショウ属の植物です。テンナンショウの仲間は、同じサトイモ科の半夏の原植物であるカラスビシャクと同じように、仏炎包と呼ばれる花序が特徴的で、また球形から扁平形の根茎を有します。形態的には様々な植物が存在するため、分類が難しい植物群とされています。テンナンショウの仲間は、根茎部分が生薬として利用され、生薬名を「天南星(てんなんしょう)」と称します。生の植物では、根茎部分の粘液に直接触れると、かぶれることがありますので、注意が必要です。万が一、触れてしまった場合には、流水でよく洗い流すことをお勧めいたします。

天南星には、一般には、えぐ味があります。また、化学的には安息香酸を含有することが知られており、この他にも、多くの成分を含んでいますが、未解明な部分もあります。また、下水の処理施設が整っていなかった時代には、便所の虫殺しとしても使用されていました。

天南星は、『日本薬局方外生薬規格』で、マイヅルテンナンショウ Arisaema heterophyllumA. erubescensA. amurense 又はその他同属の近縁植物のコルク層を除いた塊茎であると規定されています。天南星は去痰、鎮痙薬として利用されており、清湿化痰湯や二朮湯などの処方に配合されています。