近年、日本各地で薬用植物の栽培が盛んになってきています。その背景として、生薬の輸入元である中国での諸事情の変化に伴い、薬用植物の国内栽培化が求められている点があげられます。また、農業従事者の高齢化に伴う耕作放棄地や休耕田を活用した町おこしの一環として薬用植物の栽培が行われる場合など、いろいろな事情があります。

暑い夏の間、植物は生育場所の環境に順応しながら成長してきました。秋の訪れとともに、薬用植物では、根や根茎などを薬用部位とするものの多くが収穫の時期を迎えています。いろいろな薬用植物の栽培が試みられていますが、その中で薬用とされるとともに、染料にもなる植物に、ムラサキ科のムラサキがあります。

ムラサキの栽培は古く、天平時代にはすでに各地で栽培が始まっていたようです。江戸時代になると奥羽、甲州、総州、播磨などが産地として知られていました。現在では日本の各地で栽培が行われていますが、それぞれ規模はあまり大きくなく、また栽培は一般的に難しいとされます。ムラサキは2年以上の根を収穫しますが、1年目で根が大きくなりすぎると2年目に肉割れを起こして、根が腐ってしまうことも問題の一つです。

ムラサキの根は、生薬「紫根」として利用され、火傷などに用いる紫雲膏に配合されています。ムラサキは日当たりに良い山地の草原に生育していますが、現在日本では絶滅が危惧される植物です。その原因は、乱獲または生育に適した草原の開発などと考えられています。品質が良い紫根を使い続けられるように、ムラサキの国内栽培が更に発展していくことを願います。