日本の植物園では、温室の中でバニラが花を咲かせる季節となりました。バニラは、ラン科バニラ属のつる性植物で熱帯地域に数十種が分布しています。これらの中の2種の果実が香料のバニラとして利用されています。一般的に用いられるのは Vanilla planifoliaの果実で、この植物はメキシコからブラジルにかけての熱帯林に自生しています。

バニラの果実は、円柱形で細長く、長さ15〜30cmの鞘状になり、毎年一株当たり数十個を収穫することができます。完熟しないうちに採取し、ゆっくり発酵させると、独特の甘い香りを持つようになります。果実の中に微小な種子がたくさん入っており、これらがバニラビーンズと呼ばれるものです。また甘い香りの成分をアルコールで抽出させた液体が、バニラエッセンスとなります。

バニラビーンズやバニラエッセンスは、クッキーやプリンなどの洋菓子やアイスクリームの香りづけに用いられます。独特の甘い香りの成分としてバニリンが知られています。バニリンは、水には溶けにくいのですが、エタノールなどの有機溶媒に溶解しやすい性質を持ちます。なお、現在では化学合成で作ったバニリンが多く使用されています。

メキシコではバニラの香りをつけたタバコや飲み物が知られています。このメキシコ産バニラをヨーロッパにもたらしたのは、コロンブスとされています。現在ではマダガスカル産のバニラが世界的に多く流通しています。バニラは日本でも温室の中で栽培ができますが、バニラを交配させる媒介昆虫が日本にはおらず、また花の寿命は1日ほどです。バニラビーンズを得るには、開花したら時期を逃さず人工受粉させる必要があります。