梅雨が明ける頃から、いろいろなセミが鳴き始めます。セミは世界では熱帯や亜熱帯地方を中心に約1,600種が分布しており、日本にはおよそ30種が知られています。

セミは幼虫期を土の中で数年間過ごし、十分に生育した後に、夕方から夜中の暗くなった時間帯に地上に出てきて脱皮し、成虫になります。セミは種により、地上に出現する時期が異なり、梅雨が明ける頃から、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ、ヒグラシやアブラゼミなどが鳴き始めます。そして、夏が終わりに近づくと、ツクツクボウシの鳴き声が聞こえてきます。一日の中で鳴く時間帯はほぼ決まっており、雄の鳴き声にひかれて雌が近くにやってくるので、大声で鳴くことは種を維持していく上で重要なことです。

中国の本草書では、『神農本草経』の中品に、「蚱蝉(サクゼン)」としてセミが収載されています。現在では、生薬としては主にセミのぬけ殻が「蝉退」として利用されます。蝉退は、スジアカクマゼミなど数種のセミに由来するとされ、消風散に配合して、湿疹などの皮膚疾患に用いられます。また、セミの幼虫にセミタケなどの菌類が寄生したものは「金蝉花(キンゼンカ)」という生薬になります。

セミにまつわる有名な俳句として、松尾芭蕉の『奥の細道』に収載されている「閑さや岩にしみ入る蝉の声」があります。この句は、1689年7月13日(新暦)に山形県の立石寺で詠まれたもので、この俳句からは、今にもセミの鳴き声が聞こえてきそうで、暑い夏の日の蝉しぐれが想像されます。近年、異常気象により、セミの生態にも影響があらわれているのではないかといわれています。今後も毎年夏がめぐってくる度に、セミの大合唱が変わりなく聞こえてくることを願います。