赤や黄色が美しかった紅葉の時期が終わると、街の中は一気に冬の様相を呈します。この時期、家々の庭には花も少なく、もの足りない感じがします。そのような庭の片隅で彩りを添える植物にナンテンがあります。ナンテンの赤い実と大きく広がる葉は人目をひきつけます。ナンテンという名前が「難を転ずる」に通ずることから縁起の良い植物として、家の鬼門に植えたり、火災を防ぐために植えたりされています。

ナンテンは中国原産の植物で、日本には平安時代に伝わってきていたといわれています。中国では、赤い果実が燭(ともしび)のように見えることから「南天燭」、あるいは茎が竹のようであることから「南天竹」という名で呼ばれ、日本ではその名が略されて「南天」になったといわれています。またナンテンの学名 Nandina domestica は和名「ナンテン」がもとになっているとされます。

ナンテンの果実は「南天実」という生薬になり、日本で民間療法的に鎮咳薬として、百日咳や喘息などの治療に用いられます。ナンテンには、実が赤く熟するもの以外に白く熟するシロミノナンテンがあり、薬用にはこちらの「白南天実」が好まれますが、効果の違いはないといわれています。

ナンテンの類似植物にはヒイラギナンテンがあり、公園などに植栽されています。これは同じメギ科に属しますが、葉に鋭い鋸歯があり、果実は黒紫色です。また「ヒイラギ」といえばクリスマスの飾りが思い浮かびます。飾りに使うのはモチノキ科のセイヨウヒイラギで、ナンテンと同じように冬の時期に赤い実が美しい植物です。またヒイラギという植物もあり、こちらはモクセイ科に属し、晩秋から冬に白い花を咲かせます。冬の間は華やかな草花が少なくて寂しいように思われますが、これらのような常緑の樹木をじっくりと観察するよい機会であるのかもしれません。