今年の冬は特に寒い日が多く,各地で雪のニュースをよく耳にしました。このような年は春の訪れがいっそう待ち遠しいものです。しかし,3月にもなると寒さもやわらぎ,あちらこちらで植物の息吹を眼にすることができます。地面からはフキノトウがあらわれます。フキノトウはほろ苦い味と独特な香りが楽しみな山菜で,フキノトウ味噌,天ぷらなどにして食べると舌でも春を感じることができます。

フキノトウは,フキの若い花序で,蕾あるいは花が少し開きかけた頃までに採取して食用にします。雌雄異株で,雌株では,受精して種子が熟していくと花茎が伸び,高さ30?以上にもなり,初夏にタンポポのような綿毛のついた種子が風にのって飛ばされます。葉はフキノトウよりも遅れて地下茎から地表に伸び出し,その葉柄も野菜として,きゃらぶきなどに加工して食卓にのぼります。

ところで,生薬「款冬花」の原植物として,古来日本ではフキがあてられてきました。江戸時代の本草書である『古方薬品考』にも「款冬」としてフキが描かれています。しかし,本来の「款冬」はフキタンポポであり,近代に至り,植物学者により基原が訂正されました。一方,日本ではフキの民間薬としての使用方法も知られています。フキノトウは鎮咳,去痰によいとされ,フキの葉,茎,根は虫刺されなどに外用するとされます。

フキは日本に広く自生する植物で,古くから日本原産の野菜として利用されてきました。私たちのご先祖様たちもフキノトウを味わい,春が巡ってきた喜びを実感していたのではないでしょうか。来年も必ずやフキノトウが春の到来を教えてくれることでしょう。