日本薬局方(日局、第19改正)に「コウボク(厚朴): MAGNOLIAE CORTEX」と収載され、本品はホオノキMagnolia obovata Thunberg(Magnolia hypoleuca Siebold et Zuccarini)、Magnolia officinalis Rehder et E. H. Wilson又はMagnolia officinalis Rehder et E. H. Wilson var. biloba Rehder et E. H. Wilson (モクレン科Magnoliaceae)の樹皮であると記載されて、漢方では鎮咳去痰薬として用いられる生薬です。性状は板状又は半管状の皮片で、外面は灰白色~灰褐色を呈し、ときにコルク層が剝離され赤褐色を呈することもあり、内面は淡褐色~暗紫褐色、折面は極めて繊維性で淡赤褐色~紫褐色を呈し、弱いにおいがあり味はやや辛く、若干の苦味と渋みのあるものが良品とされます。本品は定量するとき、マグノロール0.8%以上を含むものと規定されています。同じく、厚朴を粉末にした「コウボク末」も収載されていますが、本品もマグノロール0.8%以上を含むものと規定されています。

 『神農本草経』の中品に記載され、主に精神的な要因の強い咳・梅核気(ばいかくき 咽に梅干しの種のようなものが詰まった感じの違和感)に用い、患部の緊張緩和をはかり、諸症状を緩解する効能があります。また胃腸部の機能を促進し、腹部の張りと膨満感を除き、腹部に滞留するガスを除く効能があります。

 樹皮にはアルカロイドのマグノクラリン、マグノフロリン、精油のβ-オイデスモール、リグナン類のマグノロール、ホオノキオールなどを含みます。厚朴エキスに胃運動促進・腸管運動抑制作用、中枢抑制の筋弛緩・鎮痛・抗痙攣作用、マグノロールに抗ストレス潰瘍・胃液分泌抑制・胃粘膜出血阻止作用、マグノクラリンに軽度なクラーレ様作用、β-オイデスモールに抗ヒスタミン性に胃液分泌を抑制する抗潰瘍作用が知られています。

 漢方では性味は辛苦・温、帰経は脾・胃・肺・大腸で、燥湿・化痰(痰涎を消解)・除満・降気の効能があり、腹部膨満感や消化不良、嘔吐、悪心、下痢、便秘、喘息、咳嗽など消化器疾患のみならず呼吸器疾患にも応用されます。一般には消化不良には蒼朮と、腹痛には木香と、腹満感には枳実と、冷えには乾姜と、便秘には大黄と、痰には半夏と、咳嗽や喘息には麻黄・杏仁と配合されます。最近、厚朴に含まれるマグノリグナンにメラニン生 成に関与する酵素の成熟阻害作用が発見され、外用により美白効果が認められることが報告されています。

 配合応用としては、厚朴+半夏・蘇葉は梅核気、胃の機能の失調、気が通ぜず湿が停滞して起きる胃部の張り・膨満感・および胃部から突き上げてくるような嘔吐・咳嗽を治す「半夏厚朴湯」、厚朴+枳実・大黄は気逆、気滞あるいは湿による腹部膨満感・腹痛・嘔吐・便秘を治す「小承気湯・大承気湯」、厚朴+蒼朮・陳皮は胃腹部の水滞と湿による悪心嘔吐・下痢・食欲不振・消化不良・腹部膨満感(ガス)を治す「平胃散」、厚朴+麻子仁・杏仁は高齢者にみられる習慣性の便秘を治す「麻子仁丸」、厚朴+麻黄・柴胡は小児喘息、気管支喘息などで呼吸困難と抑うつ傾向を治す「神秘湯」などがあり、通便・整腸・理気などを目標にした漢方処方に配合されています。

 中国では、各地に分布している中国南部原産の落葉高木の厚朴(M. officinalis)や凹葉厚朴(おうようこうぼく M. officinalis var. biloba)の幹枝の樹皮を生薬として用います。唐厚朴では四川省の川朴(せんぼく)、浙江省の温朴(うんぼく)などが有名です。一方、日本では北海道から九州まで広く自生する日本固有種の落葉高木のホオノキ(M. obovata)が「和厚朴」として利用され、福井県、長野県、新潟県、岐阜県などが生産地となっています。

 日本薬局方では日本産の厚朴(和厚朴)のみを規定していましたが、採集する人材の減少によって国内生産が追いつかなくなり、「第13改正日本薬局方」(1996年)には中国産の唐厚朴も収載されるようになりました。我が国固有の生薬が、価格的にも量的にも国産で賄えなくなったための現象です。

 和厚朴に含まれる約1%の精油のほとんどはセスキテルペノイドのβ-オイデスモールで、一般に唐厚朴の方が香りは強いといわれていますが、効能には特に変わりはないとされています。

 なお、ホオノキの材は堅いので建築材や建具、家具などに用いられるほか、版木や朴歯下駄としても知られています。また、葉は大きくて香りが良いため、ご飯を盛ったり朴葉味噌などに利用されています。『本草和名』(918年)には「ホホガシワ」と記され、このカシワとは食べ物を盛る器や米を蒸す時に使う葉を意味しています。葉にもマグノロールやホオノキオールといった殺菌作用のあるリグナン類が含まれています。このような殺菌成分が樹皮に多く含まれているのは、樹木が自らを護るためで、ヒトはその殺菌・殺虫作用を様々な形で活用しています。また樹木が食害に遭うのを防ぐため、樹皮の中に「苦味」のある物質が含まれることも多く、樹木部を生薬に用いているキハダ(黄柏)やニガキ(苦木)などが苦味健胃薬として用いられることが多いのはそのためです。

厚朴