日本薬局方(日局、第19改正:2026年4月10日厚生労働省告示)に「チンピ(陳皮): CITRI UNSHIU PERICARPIUM」と収載され、本品はウンシュウミカンCitrus unshiu Marcowicz 又は Citrus reticulata Blanco (ミカン科 Rutaceae)の成熟した果皮であると記載されて、漢方では行気薬として用いられる生薬です。性状は形が不ぞろいの果皮片で、外面は黄赤色~暗黄褐色で油室による多数の小さなくぼみがあり、内面は白色~淡灰黄褐色、質は軽くて脆く、特異な芳香があり味は苦く、僅かに刺激性であるものが良品とされます。本品は定量するとき、換算した乾燥物に対してヘスペリジン 4.0%以上を含むものと規定されています。
『神農本草経』の上品に「橘柚・橘皮」としての記載があるのみで陳皮の記載はありません。主治は胃腸機能を調え、気を調和し、湿を除き去痰する作用があるので、胸腹部の膨満感、食欲不振、嘔吐、しゃっくり、痰を伴う咳嗽などに効能があります。風邪の妙薬ともされます。陳皮の陳は「陳旧」の意味で、古い方が良品とされる六陳(枳実・呉茱萸・半夏・陳皮・麻黄・狼毒)の一つです。『本草綱目』では橘皮の古いものを陳皮と称して良品としたことが挙げられていて、現代中国においても橘皮の古いものを陳皮としていますが、日本では一般にこうした区別はされていません。
果皮にはカロテノイド色素のβ‐クリプトキサンチンのほか、精油のリモネン、ミルセンなど、フラボノイド配糖体のヘスペリジン、ナリンギンなどを含みます。果肉には炭水化物、クエン酸、ビタミンC、β‐クリプトキサンチン、葉酸、カリウムなどを含みます。果皮の抽出液に胃液分泌促進作用、β‐クリプトキサンチンに抗がん・脂質代謝改善作用、リモネンに鎮静・末梢血管収縮作用、ヘスペリジンに肝細胞障害抑制作用が知られています。
漢方では性味は辛苦・温、帰経は脾・肺で、理気・健脾・化痰 (痰涎を消解する)の効能があり、消化不良による腹満感や嘔気、痰が多くて胸が苦しいときなどに用いられます。
配合応用としては、陳皮+生姜は胃気を補い、気逆あるいは湿の滞りによる嘔吐・食欲不振・腹部膨満感・腹痛・下痢を治す「六君子湯・茯苓飲」、陳皮+厚朴・蒼朮は胃腸機能を高め、消化不良で胃が張って重くもたれるのを治す「平胃散」、陳皮+人参は脾胃を補い、胃腸虚弱・元気(原気:活動エネルギーの元)不足を治す「補中益気湯」、陳皮+半夏は湿による咳嗽、胸部の閉塞感、嘔吐を治す「二陳湯」、陳皮+麻黄・杏仁は小児喘息など強い呼吸困難を治す「神秘湯」、陳皮+麦門冬・貝母は慢性気管支炎などで続く咳嗽や喀痰を治す「清肺湯」、陳皮+天麻・白朮はメニエール病などのめまい症を治す「半夏白朮天麻湯」があり、理気・健脾・化痰などを目標にした漢方処方に配合されています。
陳皮の類似生薬として橘皮があります。橘皮は局外生規に「タチバナ Citrus tachibana Tanaka,コウジ Citrus leiocarpa Tanaka 又はザボン Citrus grandis Osbeck (Rutaceae) の成熟した果皮(キッピ 1)又はウンシュウミカン Citrus unshiu Marcowicz 又は Citrus reticulata Blanco (Rutaceae) の成熟した果皮(キッピ2)」として収載されています。中国の橘皮はオオベニミカン(C. tangerina)などの柑橘類の成熟果皮で、成分や効能は陳皮とほとんど同じであるので、使用に際しては陳皮とあまり区別していません。日本でも「釣藤散」のように橘皮の代わりに陳皮を代用することがあります。
基原植物のウンシュウミカン (温州蜜柑)は日本原産で、その起源については2017 年に日本の研究グループがDNA型鑑定により、原産地が中国で先に渡来して江戸末期頃から当時の代表種であったキシュウミカン(紀州蜜柑、C. kinokuni)を種子親とし、日本の柑橘類の祖先の一つである東南アジア原産の品種のクネンボ(九年母、C. reticulata‘Kunenbo')を花粉親として交配し作出されたものであることを解明しました。すなわち、ウンシュウミカンは、鹿児島県の長島が原生起源地と推定されていますが、中国大陸からの導入種を我が国の先人が品種選抜を繰り返し育成して来たものなのです。この品種と中国の温州とは直接の関係はありませんが、漢方の導入・発展と重ねて考えると、国産陳皮への敬意の念が一層深くなります。現在、愛媛・和歌山・静岡・佐賀・熊本の各県などで主に生産されています。なお、国内では中国の浙江省・四川省・湖北省産の唐橘皮(C. reticulata)が主に流通しています。
我が国の代表的な冬季の果物で、ミカン(蜜柑)といえば上述のウンシュウミカンを指します。民間療法では、消化不良や吐き気などに、乾燥果皮6~10gを1日量とし、500mLの水で半量まで煎じ、3回に分けて温めて飲みます。風邪や軽い気管支炎、のどの痛み、健胃などには陳皮 5~10g を煎じた液におろしショウガ 3g とハチミツを適量加えて温かい内に就寝前に飲めば発汗を促していっそう効果的です。
陳皮は独特の風味があるのでスパイスとしても用いられ、七味唐辛子の材料に利用され、正月に飲む屠蘇散にも配合されています。さらに、果皮 (約20個分)を乾燥して袋に入れ風呂につけて入浴すると、毛細血管を広げて血行をよくし、冷え症や肩こり、神経痛を改善します。
