日本薬局方(日局、第18改正)に「キジツ(枳実):AURANTII FRUCTUS IMMATURUS」と収載され、本品はダイダイCitrus aurantium Linné var. daidai Makino、Citrus aurantium Linné又はナツミカンCitrus natsudaidai Hayata (ミカン科Rutaceae)の未熟果実をそのまま又は半分に横切したものであると記載されて、漢方では行気薬として用いられる生薬です。性状はほぼ球形で又は半球形で、外面は濃緑褐色~褐色で艶がなく、油室による多数のくぼんだ小点があり、横切面は外果皮及び中果皮からなり厚く、表皮に接する部分は黄褐色、その他は淡灰褐色を呈し、嚢が小さく質が堅く充実し、しばしば未熟の種子を含み、芳香性で苦味の強いものが良品とされます。

 市場品は枳実(幼果)、枳殻(未熟果)の2種があり、枳実の方が気味は強いとされていますが、日局では両者ともに枳実として扱っています。両者の区別は大きさによるだけなので、いずれを用いても良いように考えられますが、実際の処方では両者を区別していることもあります。広東省、福建省、湖北省などから輸入されている市場品も区別は不明確です。国内では和歌山・広島・愛媛県が産地ですが、流通品ではハッサク(八朔:C. hassaku)を基原とするものが多いようです。

 成分としては芳香性のリモネンを主とする精油、ナリンギン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジンなどのフラボノイド、クマリン、シネフリンなどが含まれ、抽出エキスには腸管運動の抑制・抗アレルギー・収縮子宮の弛緩・血圧上昇作用があり、シネフリンに交感神経興奮作用、ナリンギン、ネオヘスペリジンに抗炎症作用があります。

 『神農本草経』の中品に収載され、「大風(たいふう)皮膚中に在りて麻豆(まとう)の如し(麻豆のような丘疹を生じる)、痒みに苦しむを主る」とあり、『名医別録』ともに、本品を用いると寒熱の結するを除き、痢を止め、肌肉(きにく)を長じ、五臓を利し、益氣し身を軽くし、胃気を安らげ、溏泄(とうせつ:湿が原因の泥状便)を止め、目を明らかにすると記載されています。

 漢方では、性味は苦酸・微寒、帰経は脾・胃で、理気・健胃・消積(しょうせき:食滞を消除し脾胃の運化機能を回復)・去痰の効能があり、気を巡らし気の滞りによる腹中の硬結や痰による胸の痞えを消す作用があるので、飲食停滞による腹部膨満感や慢性消化不良に、胃腸機能の回復をはかり消化を促進するので便秘や胃下垂に、さらに胃および肺の機能低下による咳嗽の鎮咳去痰などに用いられます。

 配合応用としては、枳実+白朮・茯苓は飲食停滞による胃腸の膨満感や慢性消化不良、胃腸虚弱、胃下垂を治す「茯苓飲」、枳実+厚朴・茯苓は気滞で嘔気がある神経性胃炎などを治す「茯苓飲合半夏厚朴湯」、枳実+麻子仁・杏仁は老人などにみられる慢性便秘を治す「麻子仁丸」、枳実+猪苓・沢瀉は腹水があって鼓脹、便秘のみられるものを治す「分消湯」、枳実+大黄・芒硝は便秘による腹部の脹りと膨満感を治す「大承気湯・小承気湯」、枳実+芍薬・柴胡は筋肉の緊張を緩め胸脇苦満および膨満感を治す「大柴胡湯・四逆散」、枳実+栝楼仁・貝母は胸中に痰があり咳をすると胸に響く胸痛を治す「栝楼枳実湯」、枳実+栝楼仁・薤白は狭心症などでみぞおちから胸にかける痛みを治す「枳実薤白桂枝湯」、枳実+桔梗は排膿を促進して疼痛をともなった皮膚化膿症を治す「排膿散・清上防風湯」などがあり、健胃・通便・理気・排膿などを目標にした漢方処方に配合されています。

 かつての生薬学では、局方品の枳実は「ダイダイ、ナツミカン又はその他近縁植物の未熟果実をそのまま、又は半分に横切したもの」とし、枳殻は別名とされていました。古医書を紐解くと、枳実は『神農本草経』の中品に収載され、枳殻は『開宝本草』に収載されていて、同一植物の未熟果実を枳実、成熟果実を枳殻として利用していますが、その効能はほぼ同様です。さらに基原植物は10種類以上に及ぶとされており、その形状はそれぞれに異なり、切り方のみならず大小も様々です。李時珍も『本草綱目』で「枳実・枳殻は、気味、功用ともに同じである。上代にも区別はなかった」と述べています。現在の中国市場品を見るかぎりはいずれの枳実も枳殻も果皮が厚く、ダイダイの仲間(C.aurantium)が主たる基原植物のようです。

 ダイダイは、一つの株に数年代の果実がつくという特徴から、「代々栄える」の意味で縁起の良い果物とされ、正月飾りや鏡餅に乗せるようになったといわれます。完熟橙色の果実を縦に四切した果皮を乾燥したものは橙皮(とうひ)といい、日局にも収載されて去痰・健胃薬として用いられます。同じ基原植物でも採取時期によって異なる生薬となり、また時代の流れの中で基原植物の表記に変化がみられることは多くの生薬にみられます。先達が長年の努力によって生薬を探索して研究し、現代医療に繋がる効能効果を解明してきたことが、今日の私たちの健康にも活きているのです。

枳実/枳殻