日本薬局方(日局、第18改正)に「ブシ(加工ブシ):ACONITI RADIX PROCESSA」と収載され、本品はハナトリカブトAconitum carmichaeli Debeaux又はオクトリカブトAconitum japonicum Thunberg (キンポウゲ科Ranunculaceae)の塊根を 1.高圧蒸気処理により加工、2.食塩、岩塩又は塩化カルシウムの水溶液に浸せきした後に加熱又は高圧蒸気処理により加工、3.食塩の水溶液に浸せきした後に水酸化カルシウムを塗布することにより加工し、1、2及び3の加工法により製したものをブシ1、ブシ2及びブシ3とすると記載されています。漢方では温補薬として用いられる生薬です。性状は、ブシ1は径10 mm以下の不整な多角形に破砕され外面は暗灰褐色~黒褐色を呈し質は堅く、ブシ2はほぼ倒円錐形で径12~16 mmの不整な多角形に破砕され外面は半透明な淡褐色~暗褐色又は黄褐色を呈し質は堅く、ブシ3は径5 mm以下の不整な多角形に破砕され外面は灰褐色を呈し質は堅く、全てに弱い特異なにおいがあり、堅硬な芯まで熱の通ったものが良品とされます。
ブシ1は近年我が国で開発された加工法でつくられたもので加工附子、修治附子の商品名で流通し、ブシ2は中国の加工法に準じてつくられたもので日本市場では炮附子と総称し、ブシ3は我が国独自の方法に準じた加工法でつくられた白河附子と呼ばれるものです。
現在、我が国で流通しているトリカブト類の市場品にはブシと烏頭(うず)があります。烏頭は生薬学的にはトリカブトの母根のことですが、市場ではトリカブトの母根・子根に関わらず加熱・塩水に浸すなどの減毒処理を行っていないハナトリカブト(唐トリカブト)、オクトリカブト以外の野生近縁種の烏頭も流通しています。局方品のブシの成分規格では有効性を示す総アルカロイド含量の上限値が設けられて安全性を確保していますが、局外品の烏頭に関しては各社自主規格として厚労省に届出されています。いずれにしても、トリカブト類の生薬は全て劇薬で保管法も指定されています。なお局方で「ブシ」とカタカナ表記するのは、生薬学的な意味でのトリカブトの子根の「附子」と区別するためです。
ブシ(附子)は『神農本草経』の下品に収載され、性味は大辛・大熱・有毒、帰経は心・脾・腎で、心・腎の陽気を補う、陽気を巡らし寒邪・湿邪を除くので悪寒の甚だしいもの、発汗過多による陽気の不足、下半身の冷えが甚だしく腹部の冷痛、冷えによる下痢、脚気浮腫、小児の慢性引きつけ、下半身の痙攣・麻痺など、一切の冷えによる疾病に用いられます。
成分としてはブシ1、ブシ2及びブシ3は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、それぞれ総アルカロイド[ベンゾイルアコニンとして]を0.7~1.5%、0.1~0.6%及び0.5~0.9%含むものと規定されています。
同局方には、上記と同様の基原植物の塊根に対する加工法1と2の「ブシ末」も収載されており、それぞれに製法に若干の違いと総アルカロイド含量が0.4~1.2%及び0.1~0.3%となっています。
毒性の強いアコニチン系アルカロイドのアコニチンは加水分解を受けるとベンゾイルアコニンからアコニンへと変化し、毒性は著しく減少します。薬理的にはアコニチン、メサコニチンなどの鎮痛作用、アコニチン類やヒゲナミンなどの強心作用、アコニチンの血管拡張作用などが知られており、附子の薬理作用として鎮痛・抗炎症・強心・血管拡張・新陳代謝促進作用などが報告されています。一方、中毒症状として口舌のしびれ、嘔吐、下痢、流涎がみられ、運動麻痺、知覚麻痺、痙攣、呼吸困難、心伝導障害が生じて死に至ることがあります。臨床的に附子中毒を予防するために他の生薬とは別に先に煎じることが必要です。
配合応用としては、附子+桂皮は寒湿の邪による神経痛・リウマチ・関節痛を治す「桂枝加朮附湯」、附子+乾姜は極度の新陳代謝衰弱・体温低下・四肢厥冷・脈微細(陽気不足による衰弱を示す脈状)にして命絶えんとするものを治す「四逆湯」、附子+人参は寒邪による胃腸機能の低下・腹痛・下痢を治す「附子理中湯」、附子+茯苓は腎気を補い水分代謝を図り小便不利・浮腫を治す「八味地黄丸、真武湯」、附子+大黄は冷えの強い便秘を治す「大黄附子湯」、附子+麻黄は陽気少なく悪寒の甚だしい感冒、特に高齢者の感冒を治す「麻黄附子細辛湯」があり、温熱・鎮痛・抗衰弱作用を目標にした漢方処方に配合されています。
トリカブト(鳥兜)類は北半球に広く分布するキンポウゲ科の多年草で、毒草として世界的に知られ、古くから毒殺に用いられ、中国やインドでは古代より薬用に応用され、またアイヌ民族などの矢毒としても利用されてきました。国内のトリカブト類は、最猛毒のエゾトリカブト(蝦夷鳥兜)、陸奥に多い日本固有種のオクトリカブト、京都の北山ブシなど、50種余りがあるといわれています。トリカブトの和名は花の形が雅楽を演奏するときに被る鳥の形をした被り物に似ていることに由来します。
