防風は日本薬局方(日局、第18改正)に「ボウフウ(防風):SAPOSHNIKOVIAE RADIX」と収載され、基原はSaposhnikovia divaricata Schischkin (セリ科Apiaceae: Umbelliferae)の根及び根茎と記載されて、漢方では発汗解表薬中の辛温発表薬として用いられる生薬です。性状は細長い円錐形を呈し、外面は淡褐色で、横切面は黄褐色で質が充実し、柔軟で新鮮な香りがあり味は僅かに甘いものが良品とされます。
ボウフウ(防風)は中国、モンゴル、シベリアなどに分布し、江戸時代に中国から渡来した多年草で、8~9月にかけて白い小花を複数散形花序に開きます。日本には自生しておらず、一時絶滅しましたが、幕府の命令により現在の奈良県宇陀市の森野旧薬園で栽培が引き継がれ、森野藤助によって復活したので、トウスケボウフウ(藤助防風)とも呼ばれます。また宇陀防風、種防風(たねぼうふう)などとも呼ばれています。現在では薬用植物園で栽培されている程度で、流通品は全て中国の吉林省、遼寧省、黒竜江省を主産地とする輸入品で賄われています。
江戸時代、我が国では同じセリ科のハマボウフウ(浜防風:Glehnia littoralis)の根が防風の代用として広く用いられていましたが、これは中国では北沙参(きたしゃじん)と呼ばれ、鎮咳・去痰薬として利用されます。成分的にはクマリン誘導体が含まれますが、発汗・解熱作用はなく、風邪や神経痛に使用する防風とは薬効が異なります。浜防風と区別するために防風を唐防風(からぼうふう)、真防風(しんぼうふう)などと呼びました。
『神農本草経』の上品に「防風」と収載され、発汗し、風邪(ふうじゃ)を除き、湿を除き止痛する効能があるので、風邪(かぜ)、頭痛、めまい、首の硬直、関節の疼痛、四肢の引きつれなどに効果があると記されています。
名称は発汗により風寒湿の三邪を除き、外邪の「風(ふう)」を防ぐことに由来します。
成分としてクマリン誘導体のフラキシジンやデルトイン、クロモン誘導体のハマウドール、メチルビサミノールなどを含みます。
性味は辛・甘・微温、帰経は膀胱・肺・脾で、解表・去風湿・止痛・止瀉の効能があるので、風邪、頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢などに用いられます。一般に止瀉には炒って用います。
一般用漢方製剤294処方のうち、駆風解毒湯、防風通聖散など25処方に配合されています。
配合応用として、防風+荊芥は風湿の邪による頭痛・発熱を治し、鼻炎、湿疹を治す「荊芥連翹湯」、防風+荊芥・蝉退は慢性湿疹や皮膚掻痒症を治す「消風散」、防風+荊芥・桔梗は化膿性皮膚疾患やニキビを治す「十味敗毒湯、清上防風湯」、防風+川芎・白芷は風邪などに伴う頭痛や片頭痛を治す「川芎茶調散」、防風+連翹・牛蒡子は扁桃炎や咽頭炎による喉の痛みを治す「駆風解毒湯」、防風+当帰・地黄・羗活は風湿の邪によるやや慢性化した関節痛・神経痛・リウマチ・痛風を治す「疎経活血湯、大防風湯」、防風+細辛は風邪を除き、歯痛を治す「立効散」、防風+滑石・大黄は臓毒証体質(肉食や甘いものの食べ過ぎで食毒が体内に蓄積している体質)といわれる肥満・高血圧・便秘・皮膚化膿症などを治す「防風通聖散」などと、多くはありませんが辛温発表薬とみなされる処方に配合されています。
防風を主薬として聖人(通聖)のような人が創案した優れた方剤という意味もある「防風通聖散」は、病院で処方される医療用医薬品と薬局等で購入できる一般用医薬品があります。中国の金時代(1115‐1234年)の医学書『宣明論(せんめいろん)』に収載される方剤で、構成生薬は他の処方に比べて多く、当帰、芍薬、川芎、山梔子、連翹、薄荷、生姜、荊芥、防風、麻黄、大黄、芒硝、白朮、桔梗、黄芩、甘草、石膏、滑石の18種類からなります。生薬の種類が多く複雑な処方構成ですが、主体は身体の熱を冷ますことであり、生薬の多い方剤は脂肪などを取り去ると考えられています。実際に近年の研究により、山梔子、麻黄などの生薬が脂肪の分解・燃焼効果に関与していることが判明しています。
便秘がちで皮下脂肪の多い人の高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ、むくみ、便秘に良く用いられますが、適応証(体質)は、いわゆる太鼓腹様で腹部膨満感がある実証(体力充実)、熱証(暑がり・のぼせ)、湿証(水分停滞)の人です。一般的には「肥満、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」を目標とします。「証」が合わない人には下痢、食欲不振、発疹、全身のだるさなどの副作用があらわれます。
これらの適応が都合よく解釈されて、肥満に効く痩せ薬、ダイエットに良い漢方薬といわれていますが、安易に服用すると下痢などを起こすことがあります。一般用医薬品であっても服薬は慎重にして、肥満症の改善のためには、運動や食事、規則正しい生活を継続し続けることが重要です。
