蘇葉は日本薬局方(日局、第18改正)に「ソヨウ(紫蘇葉・蘇葉):PERILLAE HERBA」と収載され、基原はシソPerilla frutescens Britton var. crispa W. Deane (シソ科Lamiaceae : Labiatae)の葉及び枝先と記載されて、漢方では発汗解表薬の中の辛温発表薬として用いられる生薬です。本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、ペリルアルデヒド0.07%以上を含むと規定され、しわがよって縮んだ葉からなり、特異な香気が強いものを良品とします。

 シソ(紫蘇)はヒマラヤから中国中南部が原産とされるシソ科の一年草で、日本には古くに中国から伝わり、野生化もしています。中国の江蘇省という省名は、古くからシソの産地であったことを示しています。

 古代から薬用や食用とされ、香りが大変良いので、食欲を蘇えさせたとのことです。後漢の末期、蟹の食べ過ぎで食中毒を起こして死にかけた若者に、名医・華佗(かだ)が薬草を煎じ、紫の薬を作って飲ませたところ、若者はたちまち回復したという逸話から、「紫」の「蘇る」薬だというので、この薬草をシソ(紫蘇)と呼ぶようになったといわれています。李時珍の『本草綱目』には、もとは単に蘇(そ)といったが白蘇(エゴマ)と区別するために紫蘇となったと記し、「肌を解し、表を発し、風寒を散じ、氣を行(めぐ)らし、---中を温め、魚蟹の毒を解し、云々」と記されています。

 我が国では奈良時代から栽培が行われ、現在ではアカジソ(赤紫蘇)、アオジソ(青紫蘇)、チリメンジソ(縮緬紫蘇)などの多数の品種や栽培品種があります。薬用には赤ジソ系のチリメンジソが用いられます。

 平安時代の『延喜式(えんぎしき)』には、蘇子とか蘇葉子として、古くから栽培されていたことが書かれています。江戸時代の『農業全書』には、栽培について詳しく述べ、シソには二種類があり、今でいうチリメンジソを作ることを勧めています。

 成分としては特有の香りと辛味があるペリルアルデヒド、ポリフェノールのロスマリン酸、フラボノイドのルテオリン、アントシアニン色素のシソニンなどを含みます。また、β-カロテン、ビタミンB類、カルシウム、カリウム、食物繊維などの栄養素を非常に多く含み、特にβ-カロテンの含有量は野菜の中でトップクラスです。

 性味は辛・温、帰経は肺・脾で、解表・理気・抗菌・解熱・鎮静作用があるので、風邪や咳嗽、喘息、腹満、流早産、魚毒による症状に用いられます。特に漢方では、発汗や気を巡らす目的で用いられます。配合応用として、蘇葉+香附子は胃腸虚弱で神経質な人の風邪の初期に用いる「香蘇散」、蘇葉+乾姜・桔梗は胃腸虚弱者の風邪で鼻閉塞、痰の多い咳嗽を治す「参蘇飲」に配合されます。戦国時代、加藤清正は兵士たちの落ち込みや士気の低下に香蘇散を用いたといわれています。さらに、蘇葉+半夏・厚朴は心身症・神経症の気うつで、咽喉の閉そく感、悪心、食欲不振などの症状を治す「半夏厚朴湯」などと、多くはありませんが生姜と同じように辛温発表薬とみなされる処方に配合されています。

 蘇葉の香りには嗅覚神経を刺激して胃液の分泌を促し、食欲を増進させる作用があるので、食欲不振や姙娠悪阻(つわり)にも効果があります。また魚介類による食中毒や蕁麻疹にも用いられます。

 民間療法では、葉の煎じ液を抗精神不安や風邪による発汗・鎮咳、扁桃炎、口内炎、健胃整腸、下痢などに用います。入浴剤とし、また紫蘇酒をつくって飲むと冷え症や疲労回復などに効果があります。

 種子から採ったシソ油には抗酸化作用のあるα-リノレン酸を多く含むので、蘇子(そし)といい、咳、喘息、便秘などの治療に用いるほか、最近ではアレルギー疾患に有用な健康食品としても注目されています。

 近年、アカジソの葉エキスにはロスマリン酸が含まれ、免疫を活性化させるTNF(腫瘍壊死因子)を抑制し、ヒスタミンの遊離を抑制する作用があるので、花粉症などのアレルギー症状を改善する効果が認められ、シソジュースが脚光を浴びています。また、夏バテや熱中症予防にはシソジュースを作って冷やして飲むと効果があります。

 赤い梅干は日本人の食の故郷、日本独特の保存食です。その赤い色は日本人の英知が作出したシソのシソニンと梅のクエン酸の放つ健康シンボルカラーです。

 ところで、シソは重宝なので、春になって種子を蒔いて育てようとするとなかなかうまくいきません。しかし、低温処理やジベレリン処理を施すと発芽が促進されます。こぼれ種子の方がよく発芽するという現象は、シソの種子の発芽条件を満たしていることによるのではないかと思います。

蘇葉