日本薬局方(日局、第18改正)には「カッコン(葛根):PUERARIAE RADIX」と収載され、基原はクズPueraria lobata Ohwi (マメ科Fabaceae:Leguminosae)の周皮を除いた根と記載されていて、漢方では辛涼発表薬に属する生薬です。
本品は定量するとき換算した生薬の乾燥物に対しプエラリン2.0%以上を含むと規定され、折面が白くデンプン質の多いものが良品です。
『神農本草経』の中品に収載されており、「消渇、身大いに熱し、嘔吐---諸毒を解す」と、感冒で頭痛し項(うなじ)がこわばったもの、煩熱し口渇を伴うもの、下痢、蕁麻疹(じんましん)などに効能があると記されています。
クズ(葛)は北海道から九州までの日本各地のほか、中国からインドネシアなどの温帯から暖帯に分布する大型のつる性多年草で、基部は木質化して半低木状となり、数年かけて肥大した根は塊根状になり長さは1.5mにも達します。雑草として蔓延することもしばしばで、他の植物を支えにして絡みつき、旺盛な生命力でぐんぐんと成長して日光を遮り、他の植物を締め付けて枯らしてしまいます。海外では世界の侵略的外来種ワースト100にも指定されています。
クズの和名は、かつて大和国(奈良県)の吉野川(紀の川)上流の国栖(くず)が葛粉(くずこ)の産地であったことに由来します。また葛は、同じマメ科つる性植物であるフジ(藤)とともに、葛藤(かっとう)という言葉の語源にもなっています。さらにクズは秋の七草の一つに数えられ、秋の季語として多くの俳句に謳われています。
古くから私たちは様々な形で葛を活用してきました。その根は「葛根」という生薬となり、根を水に晒して精製したデンプンを「葛粉」と呼んで湯で溶かしたものを葛湯(くずゆ)として風邪の初期や下痢の時の民間治療薬として古くから用い、また葛餅などの和菓子、精進料理のとろみ付けに用いられ、食養の分野でも重用されています。また、甘い香りの花(葛花:かっか)は二日酔いの妙薬として、蔓の繊維は葛布(かっぷ)という織物にして、葉はウサギなどの家畜の飼料としても用いられます。奈良県の吉野葛、福岡県の秋月葛が有名ですが、近年市販されている「くず粉」のほとんどはサツマイモなどのデンプンです。
成分としてはデンプンのほかにイソフラボノイド配糖体(プエラリン)、イソフラボノイドのダイゼイン、フェルモノネチン、ゲニステインおよびサポニンなどを含みます。ダイゼインに鎮痙・エストロゲン様作用が、フェルモノネチン、ゲニステインに弱い卵胞ホルモン様作用があり、解熱・鎮痙・降圧・消化管運動亢進作用などが知られています。
性味は甘辛・平、帰経は脾・胃で、解表(げひょう:体表を緩める)・透疹(とうしん:すみやかに発疹させて解する)・止渇(しかつ:喉の渇きを止める)・止瀉(ししゃ:下痢を止める)・潤筋(じゅんきん:筋肉のこわばりを和らげる)の効能があり、漢方では頭痛や肩こりなどの感冒症状、麻疹、筋肉の緊張、口渇、下痢などに用いられます。
配合応用として、葛根+麻黄は発汗を促し頭痛・感冒を治す「葛根湯」、葛根+桂皮は寒邪による項背および肩背部の筋肉のこり・痛みをとり、軽い発表作用も兼ねる「桂枝加葛根湯」、葛根+辛夷は急性・慢性副鼻腔炎(蓄膿症)や慢性鼻炎、鼻閉などを治す「葛根湯加川芎辛夷」、葛根+升麻は感冒の初期で麻疹などの発疹を伴う症状を治す「升麻葛根湯」、葛根+桔梗・石膏は中耳炎などを治す「葛根湯加桔梗石膏」、葛根+黄連・黄芩は急性腸炎、消化不良、食中毒などによる熱性の下痢を治す「葛根黄連黄芩湯」などと、発汗解表薬・止瀉薬とみなされる様々な処方に配合されています。
とりわけ頻用される「葛根湯」は『傷寒論』に収載されていて、「桂枝湯」の加味方剤です。葛根が主薬(君薬)として作用するために命名されましたが、桂枝湯に葛根と麻黄が加わった方剤であるため、基本的には桂枝湯の症状が見られる場合に用いられます。本方は葛根と麻黄の作用によって発汗し筋肉の緊張を和らげる作用があるので、比較的体力があり自然発汗を伴わない感冒・鼻かぜなどの熱性疾患の初期、結膜炎・扁桃腺炎・中耳炎・乳腺炎などの炎症性疾患、肩こり、上半身の神経痛(五十肩)、蕁麻疹といった疾患に幅広く用いられる漢方薬です。一般に、漢方薬の風邪薬と考えられがちですが、虚弱な人や高齢者には作用が強すぎることもあるので注意が必要です。また本方は眠気を催さないといわれますが、それは麻黄に由来するエフェドリンの弱い覚せい作用によるものです。
最近の研究で、根や花にはアルコール代謝を促進する効果などが報告されています。葛花を塩漬けにするかよく茹でて水に晒して三杯酢にして食べると肝機能が改善するそうです。
